キミと、光さす方へ

「どうして?」


その言葉にあたしは驚いて顔をあげた。


松本くんは首をかしげている。


「ど、どうしてって……。図書室での会話を聞かれたから、暴力を受けたんだよね?」


「そうだとしても、あの噂は事実だって言ったはずだけど」


松本くんの声は冷たかった。


触れると怪我してしまいそうなとげとげしさも感じられる。


誰も寄せ付けない雰囲気にたじろいだ。


「そっか……」


あたしはそうとしか言えなくなっていた。


本人が噂を認めていて、その上で暴力も受け入れている。


それならもうあたしが言うことはなにもない。


あたしは一歩後退した。


来るんじゃなかった。


あたしは松本くんに似ていると勝手に感じていたけれど、松本くんはそうじゃない。


あたしはただのクラスメートの1人でしかないんだ。


「どうしてそんな顔してるの?」


そう言われて、初めて自分が泣きそうな顔をしているのがわかった。


慌てて笑顔を取り繕うけれど、上手くいかない。


「なんでもない。じゃ、お大事にね」


あたしは早口でそう言い、逃げるようにアパートを後にしたのだった。