キミと、光さす方へ

「琴江、サンキュ」


顔の横から赤ペンをニュッと差し出されて思わず声を上げそうになってしまった。


「脅かさないでよ」


あたしは赤ペンを受け取りながら勇人を睨む。


勇人は悪気なさそうに漂漂としている。


「ねぇ勇人、赤ペンくらい自分で持ってきなさいよ」


そのまま自分の席へ戻ろうとしていた勇人を、泉が引き止めるように声をかける。


「インクがなくなったんだよ」


「本当に? それじゃペンケース見せてみなさいよ」


泉の顔はやっぱりニヤついている。


獲物を見つけた小さなハイエナといった感じた。


「えっと……ペ、ペンケースごと忘れたんだよ」


勇人は慌てた様子で言う。


「それ、勉強する気あるの?」


泉に言われて肩をすくめている。


「とにかく、サンキュな」


ポンッとあたしの頭を叩き、会話を切り上げて席へ戻る勇人。


あたしはホッと息を吐きだした。


「妙なこと言わないでよね」


あたしは泉を睨んでいった。


「妙なことって?」


「それは……その……」


勇人があたしのことを好きだとか、そういう妙なことだよ。


なんて、自分の口からは言えなかった。