そう思っていた時だった。


向こうから歩いてくる人物に見覚えがあってあたしは「あっ」と、呟いていた。


直哉もあたしの反応を見て視線をやる。


そして目を見開いた。


なんであいつがここに……。


嫌な予感がして背中に汗が流れる。


歩いて近づいてきているのは烈だったのだ。


直哉のことをボコボコにした張本人。


あたしは警戒して直哉の手を握り締めた。


「なんだお前ら、デートか?」


目の前まで来て烈がそう声をかけてきた。


あたしは座った状態で烈を睨みつめる。


「なにもしないから、安心しろ。俺も偶然ここに来ただけだから」


烈はそう言いながら当たり前のようにタバコを口にくわえた。


……本当だろうか?


「お前のことはもう諦めた」


烈は直哉へ向けてそう言うと、あたしたちに背を向けて歩き出したのだった。