キミと、光さす方へ

木を隠すには森の中と言うように、自分を隠したいなら、大勢の中に紛れ込めばいい。


松本くんはそれに気がついていない。


「あれ、琴江?」


不意に声を掛けられて飛び上るほどに驚いた。


振り向くとそこには勇人が立っていた。


一瞬たじろいでしまう。


泉が相手なら『なんだビックリさせないでよ』と言えるけれど、勇人は違う。


会話はするし仲もいいけれど、他のクラスメートと同じだ。


呆然として勇人を見つめていると、勇人は怪訝そうな表情になって首をかしげた。


「なんでこんな時間まで教室にいるんだ?」


聞かれて、我に返る。


返事をしなきゃ余計に怪しまれる。


森の中に立つ木になっていたのに、あたしだけ浮いてしまう。


「あ……えっと……」


緊張して背中に汗が流れていく。


言葉が喉に張り付いて、上手く出てこない。


一対一での会話がこんなに緊張するものだとは思っていなかった。


頭の中が真っ白になってしまうが、ここで黙っていたら余計に目立ってしまう。