「なんだよ、そんなに見られたら照れるだろ」


勇人は自分から近づいて来た癖に、顔を赤くして身を離した。


「え、あ、ごめん」


謝ってから、首をかしげる。


どうしてだろう。


どうしてあたし、勇人を見てドキドキしなくなったんだろう。


あれだけの至近距離で見つめられれば、それが勇人なら、いつもドキドキしていたはずだ。


それが、今日はなにも感じない。


あたしは自分の胸に手を置いた。


あたしの中で何かが急速に変化していっているのを感じる。


「琴江?」


泉が心配そうな表情をこちらへ向けた。


「なんでもないよ。大丈夫」


それからあたしはちょっとトイレと言って、教室を出たのだった。