『お兄ちゃんが……お兄ちゃんがね、事故にあってそれでね、いっぱい怪我をして……っ』
自分でも何を言っているのか分かっていない母の言葉は支離滅裂で。
それでも何を伝えたいか分かってしまうんだから、人間ってすごいと思う。
どうにか拙い母の言葉を自分なりに並べ替えて、ようやくすべてを理解する。
理解した後、理解しなければよかったと後悔が襲ってきた。
知らなければよかった。
母のめちゃくちゃな言葉を解読なんかしなければ……。
お兄ちゃんが、未成年の乗るバイクに轢かれて意識不明の状態だと知ることもなかったんだから……。
「……っ」
私はまだ不幸ではなかった。
不幸とは、不幸が次の不幸を呼んだ時に使う言葉だと思う。
「お……にい……ちゃん?」
それから
どうやって病院まで駆けつけたかは覚えていない。
だけど、真っ白なベッドの上で眠る兄の姿は
兄ではない他の誰かに見えるほど……痛々しかった。
そんな兄を見て
初めて知ったことがある。
どんなにいいことをしても
どんなに悪いことをしようとも
不幸は無差別にやってくるものだと。
だって、お兄ちゃんはなにもしていないのに。
逆に色んな人を幸せにしてきた方だと思う。
老人には親切に、子供には優しく。
他人が困っていたら後先考えず羞恥なんか捨てて助けるのがお兄ちゃん。
なのに、こうなってしまった。
いや、こうなる運命だったのかもしれない。
だから私は……
自分の不幸に抗うのを今日でやめようと思う。
だってどうせ
"こうなる"運命だったんだから。