【完】黒薔薇の渇愛





「あまねちゃ……」


桜木の頬に触れたままの手。


彼は驚いた顔で私を見ている。



「もういいの」


「……っ、なんでコイツのこと許すわけ?」


「違うよ」


「……」


「別に許したわけじゃない。」


「……じゃあ、なに」


「私のために、桜木が痛い思いするのが嫌なだけ」


「別に痛くない。」


「でも……手、怪我してるじゃん。」


「……」


「桜木のそういうとこ、私が見たくないの」



誰かが苦しそうにしてるのを見て怖いと感じるのは、過去の自分と重ね合わせてるから。


でも

桜木が痛い思いをするのが嫌なのは
ひとりの人間として桜木のこと大事だからなんだよ。




するりと、リボンが解けるみたいに。

桜木の手から胸ぐらが離される。



「ごほ……っ、ごほ」とその場に倒れ込み咳き込む哲。



私の思いが、ちゃんと伝わってるか心配だったけど。

桜木の目は真っ直ぐと、私を見ていた。