恋は人を駄目にするなんて、よく言ったもんだ。


本当にその通りだと思う。


男にしては長い
女にしては短い、無理矢理ゴムで一本にまとめられた桜木のグレーアッシュ色の髪が、窓の外から入ってきた太陽の光でギラついて。


元々色素の薄い彼が、光と一緒に消えていっちゃいそうに思えた。



「……っ」


駄目。


好き。


無理。


我慢なんてしたくない。


したくなんかない、のに。


忘れてた。


……桜木にはもう、彼女ができたんだっけ。


特別な相手がいるのに、私に甘い言葉が吐けるのは
やっぱり桜木が私のことなんか何とも思ってない証拠だ。


そう思えたら、じわりと涙がでてきた。


けど、桜木は『人を好きになったことがない』って私に言った。


じゃあ二日前に、私を無視して綺麗な女の人と歩いてたのは何だったんだろう。



「なに……?どうしたの天音ちゃん」


「……っ」


「急にどうしたの?
 どっか怪我でもしてる?」