ウッドチェストから一週間分の着替えを取り出し、鞄に詰めると、俺は玄関に行き、ドアを開けようとした。
が、いきなり開いたドアから顔を出したのは綾実さんだった。
一瞬、俺の顔が強張る。
「あっ、桔梗君。おかえり」
「姉さん、ただいま。そんじゃーね」
「えっ、もう行っちゃうの!?」
綾実さんはたまにしか帰らない俺でさえ家族扱いしてくる、できた人間だ。
他人なのに、いきなり家族なんて言われて、よく対応できるよねーこの人も。
まあ別に、どうでもいいけど。
「綾実ちゃ~ん!おかえりなさい!!」
靴を履いて立ち上がった時、母の嬉しそうな声が後ろから聞こえてくる。
「ただいま」
「今から一緒に買い物行かない?」
「あっ、行きたいです。あっそうだ、桔梗君も一緒に行かない……?」
俺にまで話を振ってくるのは綾実さんなりの気遣いなんだろうけど、大きなお世話。
母さんは素直で可愛い綾実さんを本当の自分の子供かの様に接していた。
……てか、本当の子供の俺でさえ、そんな気色悪い声かけられたことないんだけどね。
俺は綾実さんの言葉を無視して、母さんの睨みを利かせた視線を背中で感じながら家から出た。


