【完】黒薔薇の渇愛






まさか、私がいるなんて思っていなかったのか、桜木も驚いた表情で一歩後退りと。


そのまま何も言わず、引き返す。



「ま……待って……っ!」


ドアの自重でゆっくり閉まっていく引き戸を掴んで、慌てて病室を出る。


なんで桜木が来たの。


しかも、お兄ちゃんの部屋に。


私が居ると思って……?


いや、桜木は私がここに居るなんて思ってもみなかったって顔してた。


だけど私、お兄ちゃんが入院してるってこと桜木に言ってないから、そもそも部屋の番号なんて知らないはず。


それじゃあなんで桜木がここにいるの。



やっぱり私、桜木のことなんにも知らないんだ。


知らないから……知りたくて手を伸ばしたくなる。




「さくらぎ……っ!」



病院の廊下。
みっともない声を出してちょっとだけ恥ずかしかったけど、誰もいないのが救い。



私の声に反応してピタリと足を止める桜木。


そのスキに距離を詰め、必死な思いで彼の服を掴んだ。