何か悩み事があったら、すぐにお兄ちゃんのいる病室に泣きながら逃げてたっけ。
スリッパから靴に履き替えて、「いってきまーす」とお母さんに声をかけて家から出る。
病院まで歩いて数十分。
もうすぐ春を迎えるっていうのに
まだ冷たさが残る風は、私のうなじを撫で、鳥肌をたたせる。
「失礼します……」
数十分後、通いなれた病院に着いてお兄ちゃんのいる病室のドアを開ける。
相変わらず目を閉じたままのお兄ちゃんは、いつ目覚めてくれるんだろう。
「ねえお兄ちゃん……今日は重大発表があるんだ。 私好きな人出来たんだよ」
「……」
「目覚めてくれなきゃ……恋愛話だってできないでしょ?
そういえば、お兄ちゃん。全然女の影ないよね。
カッコいいし優しいから絶対モテるのに」
「……」
「ここの病室で何回かお兄ちゃんのお見舞い来てた女の人たち見たよ……。
お兄ちゃんも隅に置けないね。」
「……」
「いつ……返事してくれるようになるの?」
いつもいつも。パイプ椅子に座って問いかけたって。
お兄ちゃんは起きてくれない。
話のネタはつきそうにないけど、お兄ちゃんが口を開いてくれなきゃ結局意味がないよ。


