【完】黒薔薇の渇愛






女の人の肩を抱き寄せながら、桜木はこっちを振り向くと、私と目が合う。


ビクッと過剰に反応してしまう私と違って
彼は顔色ひとつ変えずにこっちに向かって歩いてくる。


どうしよう

ーーどうしよう。


どんな顔して桜木と話せばいいの。


何を言えばいいの。


その人は彼女?


そもそも私、好きなんて言われてない。


桜木が別に特別な女の子がいたっておかしくない。


自惚れてただけ。


怖い人が……私には優しかったから。


どんどん縮まる距離。


ついに目の前にやってきた桜木に「あっ……」と小さな声が漏れると。


スッと彼は、あの日みたいに。私のことを透明人間かの様に扱って、まるで見えていないみたいに目すら合わせてくれない。


横を通りすぎる桜木。


通行人の足音が雨音に紛れてる。


パシャパシャと、その足音は私の心を乱すの。




「……っ」



雨でよかったと思う。


涙を紛らわせることができるから。



……でも心だけは偽れないね。


呆気ないほど、関係が終わったのをこの目で見た。


桜木とは、友達でも知り合いでも何でもない。


赤の他人になってしまった。