【完】黒薔薇の渇愛






「……っ」


じわりと視界が涙で歪んだとき。


ポタリと冷たい何かがうなじに触れ、それは次第に強さを増していく。



「……雨」


今日の天気予報は晴れだって言ってたのに。


だけど、泣き顔を隠すにはちょうどよかったのかも。


ゴシゴシと雨まみれの顔を拭く。


土砂降りにならなうちに今日はもう帰ろう……と、踵を返そうとした。


その時。


目の前の光景にドクン……っと、鈍い嫌な音が鳴る。


桜木。


後ろ姿でもわかる。

ずっと探していた桜木が目の前にいる。


けど。


……女の人も一緒だ。


しかも"あの"桜木が、自分の上着を女の人の肩に掛けはじめると。

優しい手つきに女の人肩を抱き寄せて、歩き始めた。



「……」



なんで。


優しくしたいのは私だけって言ったくせに。


もう他に……優しくしたい人見つかったの?


その人がいるから、私とは会わないの?



わからない。


桜木のことだけは、いつまで経っても分からないよ。