「もう俺みたいな、悪い男に掴まっちゃダメだよ。
 それじゃあね、天音ちゃん」


ーーバイバイ。



バイクに跨がる彼に、「……っ」引き留める言葉が見つからない。


「ねぇ……ちょっと待ってよ桜木……!」


バイバイって、どういう意味?


なんで今更……私が気持ちに気づいた今更になって、離れようとするの。


反応なんかしてくれない。

透明人間にでもなった気分だ。 


桜木は流し目ですら私を見ずに、走り出したバイクに微風だけを巻き起こして去っていく。




「桜木……ってば……」



彼がいなくなる様な気がしていた。

ザワついていた胸は、確かに私に教えてくれていた。


なのに……なんでだろう。


最後までしがみつくことができなかった。



好きなのに、好きだけじゃ足りない勇気を
私は持ててなかったみたい。




こんなに好きなのに。