舌でペロリと唇を舐め、獲物を今から捕食しようとしている桜木は、今にも奏子に飛び付いてしまいそうな勢いだ。


奏子が今から出す答えひとつで、奏子の生死が左右される。


静寂が時を包んだとき。


ゆっくりと……奏子は私の向かって指をさす。



「あっ……あの女。
 あの女好きにしていいから……許してください」



ドクンッ……と酷い音が、全身に響く。



「そ……なに言って」


意味がわからない。


スキニシテイイ?


誰が誰をーー……好きにしていいって?



「あれ、天音ちゃんを俺にくれるの?」


「……総長に言われてんだ、逢美の総長『桜木桔梗』だけには手を出すなって……。
 俺だってあんたの身内って知らなきゃ絶対に手なんかだしてなかった……」


「そういえば岡本奏子君のいるチームは『火炎(ひえん)』だっけ?」


こくりと頷く奏子を見て、血の気が引いていく。


奏子は私と付き合う時、私を危ない目に合わせたくないから自分のいる暴走族を抜けたって言ってたのに。


そもそも奏子が暴走族のメンバーだってことは、その時はじめて知った。


言われてすぐチームから抜けてくれるなら……別に良いかと気にしていなかったのに。



まさかチームを辞めていなかったなんて……。