「授業中に寝るとは、いい度胸だな。和倉」


「ーーッ!?」


閉じていた目蓋を開いて、真っ先に視界に入ってきたのは
教科書を丸め机と机の間に立ち、私の顔を覗き込んでいる先生。


驚いて、机に頬を押し当てていた顔を起こすと、パコーンと先生に持っていた教科書で叩かれた。


「先生の授業で、幸せそうな顔して寝るなんて。
 一体どんな夢を見てたんだ」


「……っ」


「授業に集中しなさい」


くるりと回って、先生は教科書を読みながら黒板に向かって歩き出す。



……幸せそうな顔って、なに。


桜木に告白される夢を見ていた。


あれは夢……なんだよね?


妙にリアルに感じてしまうのは、きっと昨日の
桜木の"らしくない"台詞のせいだ。


『損得なしで君には優しくしたい』


そんな言葉、あの男の口から出るのが奇跡に近いって

桜木とこれといって関係性のない私から見ても分かるくらいなんだもん……。


私たちって……友達ではないよね?



お互い、そんな雰囲気じゃないし
そんな信頼を彼に持っているわけでもない。



桜木は謎多き男だ。


助けてくれたり、それとは反対に容赦すらない。


人の気持ちが分からないなら
私を助けることだってしないだろう。


けど彼が見せる冷徹な部分があまりに多すぎて。

やっぱり冷たい人なんだなって、悲しくなってしまうときがある。



「……」


だからなんで私が、悲しくなんなきゃいけないの。


桜木が冷たい人だろうが、なんだろうがどうだっていいじゃん!



こんどこそ先生に怒られないように、ズレているメガネをかけ直して遅れた分の授業内容をノートに書き映した。