"けど、損得なしで君には優しくしたいと思ったよ"


柔らかい声色、普段の彼からは想像できない優しい心持ち。


そんなことを普段言わないような男から言われて、ドキドキしない女がいるなら私は見てみたい。


でも、けっして勘違いしてはいけない。


桜木は人を好きになったことがないって言ってた。


恋をしたとき、全身が熱くなったり、胸が苦しくなったり。
だけどどこか、その苦しさは心地が良くて、甘い吐息すらも漏らしてしまうほど、鼓動に追いやられ夢中に感じてしまう。


そんな想いを、桜木がしているとはどうにも思えない。



『天音ちゃん、好きだよ』


『……っ』


『好きだから、触れたいって、優しくしたいって思うことに気がついたよ』


『さくらぎ……』



『だから君に、触れてもいい?』



桜木の手が私に向かって伸びてくる。


慈しむ様な、それでいてどこか強引な男の人の手。


目をぎゅっと瞑って、その手を受け入れようしている自分がいる。


まだかまだかと、桜木に触れられるのを待ち望んで。


全然やってこない桜木の手に、目をうっすら開けたときーー。