【完】黒薔薇の渇愛






「でも放っておいたのは、なんでか分かる?
 俺がその子たちに情がなかったから」


「……」


「その子たちは俺に一夜限りの関係を望んだの。
 それ以外、他になかったから助ける情なんて生まれない」


「……」


「でも、天音ちゃんはどうだろう」


「……」


「天音ちゃんに、優理花が酷いことしたら。
 俺はどうなっちゃうんだろうね。」


「……」


「俺でさえ分かんないから、止めといた方がいんじゃない……?
 優理花の今考えてること、実行するの。」


「……っ、」


何かを言いたそうに、だけど言葉が詰まっている優理花さんは悔しそうに桜木を見る。



「まあでも。好きかどうかの質問にはちゃーんと答えてあげる。
 大丈夫、俺人を好きになったことないから、多分天音ちゃんのことも好きにはなってないと思うよ」



淡々と答えていく桜木。

その答えに、なぜか私の心もーーズキッと痛んだ。


私も桜木のことなんか別に好きじゃないし……って言い返してやりたいのに


うまく喉が使えない。声帯が動かないんだ。



じゃあなんで桜木は私に触れるんだろう。


可愛がるんだろう。


甘い言葉を吐くんだろう。



答えは簡単だ。



私が(なび)いたら、彼は私に興味を失くす。


見たことない、今まで出会ったことのない"面白い"人間として扱われてる。


桜木が私に興味があるのは、それくらい簡単な理由だ。



そう、分かっているのに。


胸がズキズキと痛い。


多分私は、今。優理花さんと同じ苦しいような悔しいような……どこにも行き場のない表情をしていると思う。