桜木の言葉に、むせそうになる。
けど、すぐに咳払いして誤魔化した。
「ちょっと桜木……勘違いさせるようなこと言わないでよ」
「えー、勘違いじゃないし。
俺が嘘つくように見える?」
嘘つくようには見えないけど、嘘くさいとは思う。
そんなこと、口が裂けても言えないけど。
「とっ、とにかく。
私と桜木の間に何もないので、この男の言うことは気にしないでください」
誤解させないように、自ら優理花さんに手を横に振りながら言う。
私の頭に顎を乗せている桜木が、目を下に向けながら、爆弾発言をするまでーー三秒前。
「キスした仲なのに、何もないなんて。
俺とは遊びだったのかなー、天音ちゃん」
空気を読めないんじゃない、そもそもこの男は読む気がないんだ。
優理花さんと真っ直ぐ向き合っていたせいで、お互い目を見開き、同じ体勢でピシリと固まる。
川の流れる音が聞こえてくるほど、静まり返ったこの場所で
桜木の発言に驚く者しかいなければ、全員気まずそうに、だけど目線だけは私たちにしっかりと注目する。
雪羽さんと朱光さんに至っては、桜木の突拍子のない発言に今更驚いたりはしない。
ふたりとも、ため息は吐くが「またか……」という目をこちらに向けていた。
多分……空気を読まない発言は、今まで何回かあったんだろう。


