【完】黒薔薇の渇愛






完全に面白がられていると分かっているからこそ、抗いたくもなるが、桜木は(ことごと)く私の表情や言葉の選択肢を潰していく。


いい加減離れてくれなきゃ、こっちの心臓ももたない。


どうすればいいのか悩んでいると。


「ねえ、桔梗。
 その子のこと、いい加減紹介してくれてもいいんじゃない?」


音も立てずにいつの間にか、目の前に立っている優理花さんにビクッと驚く。


おかしな話。
幼なじみの男が目の前で見知らぬ女にベタベタしているのに
この人は呆れとか気持ち悪いとか思わず、その綺麗な顔は無に等しい。



だけど頭を過るのは、優理花さんが私を睨んでいたこと。


メガネがずり落ちて、急に視界がボヤけたから
ハッキリとは分からないけど……。


やっぱり私の考えすぎなのかも。




「紹介……?
 なんで優理花に教えなきゃいけないの。
 どうせもう会うこともないんだから関係ないじゃーん」


「随分……気に入ってるのね、その子のこと」


「まあね。こんな面白い子なかなかいないよ」


「……じゃあどこが面白いのか教えてくれる?」


「だから内緒だって」


「どうして?」


「天音ちゃんが面白いのは、俺だけ知ってればいいから~」