【完】黒薔薇の渇愛





ひらひらと手を振る桜木。


この男はいつも自分の感情でしか動かない。


だけど……なんでその感情に、私が入っている、入ることができたんだろう。


思い当たることといえば
奏子がナイフを振りかざした時、私が桜木を咄嗟に庇ったあの時からだ。


……桜木の優しさが私に向いてるのは。



だとしたら、言い方は悪いけど桜木の感情に付け入る隙があるってことだよね。



男の元へ一歩一歩ゆっくりとじれったく足を進めている桜木。


少しだけ揺れた桜木の服の裾に手を伸ばして、こっちに向いてもらえるよう引っ張る。



「……なーに、天音ちゃん」



流し目で見る彼は、明らかに不機嫌だけど
やっぱりこっちを向いてくれた。




「いい……から、」


「……なにが?」


首を横に振りながら言うと、桜木はいつも通り私のことを意味分かんなそうに見る。



「怪我してないし……尻もちついただけだから。
 その……あの人に痛い思いとかさせるの、やめて」



「……」