【完】黒薔薇の渇愛





「…………天音ちゃん」


すぐ近くで聞こえた、桜木が唾を飲み込む音。


名前を呼ばれて、俯いていた顔をあげれば
今にも私を食らいたそうな桜木の、野性的な目に、こんどは私が唾を飲み込む。



「なーに……その顔。
 急に黙ったと思ったら、女の子らしい顔しちゃってさ」


「……っ、別にしてな……いよ」



「ウソ。可愛い顔してるよ。
 どう?けっこう俺のこと好きになってきたりして」



「……っ」



そんなんじゃない。って言いたいのに。


この甘酸っぱい空気に喉が絞まって声がでない。



ダメだ……どんどん顔が熱くなってくる。



恥ずかしいって感情が表情にでてしまっている今
顔を見られたくなくて背けると。



「天音ちゃん」と私の名前を呼びながら、桜木の手が伸びてくる。



その手が、私の目の前までやってきた。