ふと、桜木が私の手からココア缶を奪う。


そしてそれに口をつけると。


一気に飲み干し、顔を歪めた。



「あっま……」


間接キス、なんてものを彼が意識するはずがない。


なのに、自分だけドキドキしてバカみたいだから。

私は表情を崩さず、彼の横顔を見つめる。


見つめすぎて、桜木に穴が空いちゃうんじゃないかと思ってしまうほど見ていたら。


こっちを向いた桜木と目が合い……やっぱりドキッとしてしまう。



「甘いねぇ……"そういう"とこも似てると思うよ」


「……えっ?」


「なんでもなーい」



本当に何でもなさそうに桜木は伸びをして、停めたバイクに跨がり始める。



あの桜木が、一瞬だけ。
切なそうな顔を見せたのは……きっと気のせいだと。


冷えた風は霧の様に、これ以上余計なことは考えさせないよう私の頭のなかを白に染めた。