温もりが思い出に変わる頃【完】

「あっ、須藤温じゃーん」


不意に友人が指差した窓の外を見やる。
繁華街の大きな交差点に面してそびえ立つ高いビル。
そこに取り付けられた巨大モニターではよくCMなんかが流れたりしているのだけれど、今の時期はちょうど新作映画の件で持ちきりのようだった。
その数多くの映画のなかに、今シーズン多くの注目を浴びている作品があった。


「いきなり復帰するんだもん。須藤温に一体何があったんだろうねー」


手にしているコーヒーを飲み干してから、友人を首を傾げた。

そう、なんと後遺症というハンデを抱えながらも、再び役者の世界に戻ってきたのだ。
それも数ヶ月前、須藤さんが私のもとを訪れて死ぬだなんて相談をしてきた数日後に突然ニュースになるという形で。
十年ぶりの電撃復帰と称され、しばらく世間の話題を独占していたほどに衝撃的な展開ではあった。

案の定須藤さんの復帰作品となるその映画は、まだ制作段階にも関わらず、これでもかというくらい宣伝に力を入れている。
なんでも、須藤さんの人生を一部アレンジして書き下ろした、エッセイのような内容が原作となるらしい。