夕方になり、社員達がポツリポツリと帰り始めた頃。

「あっ、玲奈さん副社長とお出かけですか?」

「えっ……どうして分かったの?」

「だって、何だか嬉しそうだし」

「これからご飯を食べに行くのよ」

ふふふっと嬉しそうに微笑む玲奈。


副社長?


俺の頭に???が沢山上がっている所に涼から声がかけられた。

「何お前、玲奈さんの婚約者知らないの?」

「……山口さん知ってるんですか?」

「知っているも何も……。ほら来たぞ」

ガチャリとオフィスの戸が開きオフィス内に入ってきた人物に翔真は驚き、口が開いたまま塞がらない。


副社長ってA&Bの副社長、北大路優人(きたおおじまなと)じゃん!!

A&Bって言ったら超大手家具メーカーで、このオフィスビルでも四八階に位置しているトップメーカー。

このオフィスビルは七階から四八階がオフィススペースになっている。俺たちの働いているライフは一般企業のため、一番下の階でA&Bは四八階。上に行くほど企業のランクは上がる。

A&Bの副社長はサラサラの黒髪、優しい瞳、整った顔立ち、スリーピーススーツがとても良く似合う。男の俺が見ても格好いい。

俺とは全然違う。

「玲奈帰れる?」

爽やかに微笑む優人に玲奈はゆっくりと歩み寄った。

「ええ。大丈夫よ」

歩み寄った玲奈の頬を優人は優しくなで、とびっきりの笑顔を見せると、玲奈の頬にぽっと朱がさした。

「もう!!二人ともこんな所でラブラブっぷりを振りまかないで下さいよ」

萌がプクーッと頬を膨らませながら怒っている。

「ん?ごめん、ごめん。じゃあ俺たちは帰るよ」

優人は玲奈の腰に手を回すとオフィスの出口へと消えていった。

それを見ていた涼が溜め息をついた。

「はぁーー。いいよなーー。明日は休みだって言うのに予定も無いなんて……。くっそーー!!翔真飲みに行くぞ!!」

「えっ……俺帰りたいんですけど……」

「そんなこと言うな付き合え!!」

翔真は涼に肩を組まれ逃げられなかった。そこへ俺たちの会話を聞いていた萌がひょっこりと顔を出した。

「えーー何々?飲みに行くの?私も行く!!」

マジか……。