「みんな遅くなってごめんなさい。会議の準備は出来てる?」

そう言ったのは黒髪を一つにまとめ、黒縁眼鏡をかけた一条玲奈(いちじょうれいな)さんだった。

彼女はとても地味で、こんなセレブの集まるオフィスビルに不釣り合いな格好をしていても、オフィスビルの人達からとても慕われていて、俺はとてもうらやましく思っている。

地味でも仕事が出来ればこんなに慕われるんだな……。

俺はきっと一生このままだ。

俺も見た目がかなり地味。

何でこんなセレブの町で働いているんだろう?

出るのは溜め息ばかりだ。


「玲奈さん凄い量の資料ですね。私も持ちますよ」

翔真の横を小柄な女子社員が通り過ぎた。

この人は俺の一つ上の先輩で佐藤萌(さとうもえ)

柔らかそうな茶色の髪をハーフアップにし、可愛らしい笑顔を振りまきながら玲奈に駆け寄った。

「萌さんありがとう」

玲奈がそう言うと萌の顔が赤くなっていく。

何で顔が赤くなるんだ?

「あっ、俺も持ちますよ」

なぜか涼と萌が資料の取り合いを始めた。

「ちょっと山口、後から出てきてウザいわよ」

「はぁー?ウザいって何だよ。そう言えば、玲奈さん何で佐藤のこと萌さんて呼んでるんですか?」

「昨日食事に行ったときに萌って呼んでほしいって言われて……」

嬉しそうに頬に手を当てて、赤くなる玲奈を見て、涼は女子の様に頬を膨らませて怒っている。

「玲奈さん何で赤くなるの?ずるい、俺も涼って呼んで!!」

「あはは。山口は無理でしょう。副社長に嫌われてるもん」

「それ言うなよー」

涼が頭を抱えてしゃがみ込んだ。