「翔真、見たか?今日の玲奈さんやばくない?」

「そうですか?いつもと変わらなかった気がするけど、山口さん本当に一条さんのこと好きなんですね」

涼はしらっとした顔をした後、翔真を睨みつけた。

「お前本当に分かってねえよな。そう言えばお前、最近どうなの?やりがいとやらは見つけられたのか?」

やりがい……。

俺は今回、自分の加湿器が形になっていくことで、少しづつ何かが変わり始めたような気はしていた。

でも……何かが足りないような気もしていた。

俺って何でも中途半端なんだよな。


その時、萌と玲奈がオフィスへと戻ってきた。

あれ?

一条さんいつもと何だか雰囲気が違うような?

何だろう?

俺でも気づくぐらいだから何かが違うはず……。

後ろで萌と涼がコソコソと話し始め、俺と一条さんを呼んだ。

「玲奈さんはこっち来て下さい。翔真はそっちね」

涼の声で二人は指示された場所に立つと翔真の前には背を向けた玲奈が立っていた。

どういう状況だよこれ。

「玲奈さん、日野くんのこと思いっきり褒めてあげて下さい」

楽しそうに言った萌が玲奈の眼鏡を取り髪をほどくと、サラリと長い黒髪が滑り落ちシャンプーの良い香りが漂ってくる。

そして、クルリと振り返った玲奈の姿に翔真は息を呑んだ。

「なっ……。一条さん!!」

玲奈は春の木漏れ日のような優しい微笑みを浮かべ、いつもはつけないピンクのグロスを塗った唇がゆっくりと動いた。

「日野くん試作品発表会お疲れ様でした。本当によく頑張ってくれました。日野くん機転のおかげで、あの場を乗り切ることも出来たわ。ありがとう。これから冬にかけて、もっと忙しくなるわよ。一緒に頑張りましょうね」

何だろうこれ……。

一条さんに褒められてめちゃくちゃ嬉しい。

体の中から熱があふれ出してくるみたいだ。

心臓がドクドクと音をたてている。

「俺もっと仕事頑張ります。やりがい見つけた気がします」

「あら……日野くんのやりがいって何なの?」

「ぐっ……そっそれは……」

一条さんに褒められたいとか言えない。

顔を真っ赤にして俯く翔真の肩を涼がグッと組むと、ニカッと笑った。

「玲奈さんにもっと褒められたいもんな」

「山口さん俺の心の中を読まないで下さいよ」

オフィスの中が社員達の笑顔で溢れた。

「一条さん俺も玲奈さんて読んでもいいですか?」

「えっ……?ええ、いいわよ」

ぷっ……隣で三人のやりとりを見ていた萌が吹き出した。

「あーまた玲奈さんが新入社員をたぶらかしてる」

「たっ……たぶらかしてなんかいないわよ」

少し怒ったように頬を膨らませた玲奈の可愛らしさに、みんなの頬が赤くなっていく。

「玲奈さんそんな顔もするんですね。かわいい」

はしゃぎ出すも萌。

「もう、みんな仕事よ仕事、今日も一日頑張るわよ」

「「「はい!!」」」

オフィスの中に社員達の元気な声がこだました。