仕事が終わり玲奈はいつもの黒いスーツから上品なピンクベージュのマーメイドロングドレスに着替え優人の元へと向かった。



高級ホテルのロビーでは優人が英字新聞をよみながら玲奈が来るのを待っていた。ロビーは吹き抜けになっていてとても広く、高い天井ではシャンデリアがキラキラと輝いていて、大きな窓から見える中庭には赤く染まり始めたの木々達がライトアップされていた。

ロビーで待ち合わせ中の誰かがコーヒーを頼んだのか、コーヒーの良い香りがロビーに広がった時、優人の周りにいた女性陣から溜め息が漏れる。

優人は普通に新聞を読んでいただけなのだが、女性達の目には映画のワンシーンの様に見えるらしい。

そんな視線も無視して英字新聞を呼んでいると、ホテルのロビーがどよめいた。優人は視線を上げ、入り口へと視線を向けると、そこには綺麗に着飾った玲奈が立っていた。優人を見つけた玲奈が微笑み歩いて行くと、人々の目が玲奈に向けられていく。

「優人さん、お待たせしてしまいましたか?」

心配そうに優人を見つめる玲奈だったが、優人が目を見開き固まっていることで更に心配になった。

遅くなってしまって、怒ってる?

ブティックによってドレスを選んでいたら遅くなってしまったから……。








仕事が終わり玲奈は執事の匠が運転する車に乗り、行きつけのブティックに寄っていた。ブティックの店員達はキャーキャー言いながらいろいろなドレスを進められ、着せ替え人形のようになりながら、その中でも店員達の一押しと言うことでこのピンクベージュのマーメイドロングドレスに決めた。髪型も店員に任せ、左サイドに流し綺麗な髪留めで止めてもらい、化粧も施してもらった。


おかしな所はないはず……。

ドレス……似合ってないかしら?

やっぱり遅くなったことを怒ってる?

玲奈が遅くなったことを謝ろうとした時、やっと優人の口が動いた。

「……とても綺麗だ。俺のために着飾ってくれてありがとう」

優しく微笑む優人の表情に、胸がドキドキと早鐘を打った。

「あっ……いえ……綺麗なんて……お待たせしてしまってごめんなさい」

「そんなことは気にしなくていい。玲奈を待っている時間は幸せだよ」

サラリとそんなことを言う優人の言葉にカーと顔が赤くなっていくのがわかり、咄嗟に玲奈も言葉を返した。

「私はもっと幸せ者です」

その玲奈の反撃に今度は優人が顔を赤くし狼狽えている。

こんな優人さん見るの初めてかも……。

優人は右手で顔を覆うとフーーと一気に息を吐き出し、いつもの表情に戻った。

「そろそろレストランの方へ行こう」

優人が玲奈の腰に手を回した時、優人の体がビクリと震えた。玲奈はどうしたのかしらと、優人を見上げると右手を口元に当て目の端を赤らめている優人の顔が飛び込んでくる。

優人さんどうしたのかしら?

今度は耳も赤くなっている。

優人の顔の表情が先ほどとは違いすぐに元に戻らない。

優人は近くにいたウエイターに何か話すと、ウエイターはすぐにコンシェルジュの元へと走った。

優人と玲奈はエレベーターに乗り五十二階にあるレストランへと向かった。エレベーターの扉が開きレストランの入り口へ到着した時、先ほどのコンシェルジュが足早にやって来るのが見えた。優人はコンシェルジュから布を受け取るとお礼を言い、それを玲奈の肩にかけた。

それはドレスに合わせたベージュのストールで肌触りがとても良く、さらさらとしていた。

これは……。

玲奈がキョトンっと優人を見上げ「こういうドレスは好きではなかったですか?」と悲しそうに眉毛を寄せた。

優人は困った様に目を泳がせている。

やっぱり優人さんはこういうドレスは好きではなかったのかしら……。

もう少し控えめなドレスにすれば良かったと後悔し始めたとき、優人が玲奈に覆い被さるよう抱きつくと玲奈の耳元に苦しげな吐息を吐いた。

「玲奈……ごめん……レストランの食事、中止にしていい?」

何で……。

どうして……。