優人は玲奈の手を自分の口元へ持ってくると、優しく口づけて甘くとろけるような眼差しで玲奈を見つめた。するとすかさず百合亜が玲奈の横へやって来て出血している指を優人の前へと出した。
「優人さん、わたくしも指を怪我してしまいましたの」
百合亜は頬をポッと染めて優人が手を差し伸べてくれるのを今か今かと待っている。
「そうだ。そんな雑草放っておいて、うちの娘を見てやって下さい」
その言葉に優人の怒りが頂点へと達し、優人のまとっていた威圧が一気に重くなると、空気が変化した。
「ヒッ……」
優人の目の前にいる鈍感親子以外の人々が優人の放つ氷点下の威圧に波が引くかのごとくザザザーっと引いていった。
「ほうっ……雑草ね。俺はこんなに美しい雑草は見たことがないけどな」
「こんな雑草美しいわけがないでしょう。さあ、うちの娘を……」
「神川社長。以前一緒に仕事をさせてもらいましたが何か勘違いをしてやいませんか?余り出過ぎたまねをするとA&Bどころか一条家も敵に回すことになりますよ」
「ですが優人さん、うちとA&Bが組めば一条も敵では無いですよ」
それを聞いた優人のこめかみがピクピクと動き、神川社長に向かって極上の笑顔を向けた。優人の笑顔を見た神川社長は良い返事が聞けると自然に笑顔となった。
しかしその笑顔は一瞬で消し飛び、優人の怒りの表情に神川は青ざめた。
「神川社長、今日限りであなたとの付き合いは最後です。俺の玲奈を雑草呼ばわりしたこと許しませんよ」
「なっ……そんな雑草娘をどうして庇うのですか?」
「察しが悪い人ですね……」
優人が溜め息を付いたとき、優人を上回る威圧が庭園に広がったのを周りにいる人々が感じとった時、一人の男性がやって来た。
「先ほどからだまって聞いていれば……あなたはうちの娘を何だと言った?」
「いっ……一条社長!!どうしてこちらに……。うちの娘……?」
「雑草と言ったか?」
「いっ……いえ、私が雑草と言ったのはこの娘のことで……えっ……」
その時、神川はやっと全てに気がついた。しかし神川が発してきた言葉は今となって後悔しても後の祭りだった。
優人が優しく包み込む様にしている雑草と呼んでしまった娘が、まさか一条家の令嬢であろうとは夢にも思わなかった。
神川の額に汗が浮かび上がり、頬をつたって落ちていく。
なんと言うことだ……。
いったいどこから聞かれていたんだ……。
背中にも冷たい汗が流れていく。
「神川社長、あなたは自分の娘だけが温室育ちで特別の様に言ったが、ここにいる全てのお嬢さんは皆、両親が大切に育てられているお嬢さん方だ。あなたのお嬢さんだけが特別ではないのだよ」


