「お客様、こちらの加湿器は無理矢理つぼみを開かせないよう注意書きがしてあるのですよ」

玲奈は翔真が用意してくれたパンフレットを指さした。

「なっ私が悪いって言うの!!」

令嬢が顔を真っ赤にしてプルプルと震えていると、恰幅の良い中年男性がやって来た。

「百合亜(ゆりあ)どうしたんだ?」

今まで怒りでプルプルと震え今にも叫びだしそうだった令嬢(百合亜)が悲しそうに顔を上げた。

「お父様……わたくし、この加湿器に触れたら指から血が出てしまいましたの。でもそれは無理矢理開こうとした、わたくしが悪いのだと、この人達がよってたかって言いますの」

そう言って百合亜はポロリと涙を流して見せた。

すごい……女優みたいだわ。

玲奈は呆然と百合亜と男の話を聞いていることしか出来ずにいたが、突然こちらに話を振られたことで我に返った。

「お前達これは一体どういうことだ?うちの可愛い娘に怪我をさせるとは」

玲奈は丁寧に頭を下げ謝罪の言葉を口にした。

「申し訳ございません。先ほどお嬢様にも説明をしましたが、こちらの加湿器は花の形をしておりまして初めはつぼみなのですが、ゆっくりと花が咲いていくように開いていくもので、無理矢理開こうとすると怪我をする可能性があるのです。注意書きはしてあるのですが……」

玲奈はチラリとパンフレットに視線を向け、この説明でこの父親も納得してくれるだろうと思ったが、それが全くの逆効果だったことをこの後、知ることとなる。