順調に加湿器の予約も入り十五時を過ぎた頃、事件は起きた。


「キャーーーー!!」


一人の令嬢から悲鳴が上がった。悲鳴がした方へ人々の視線が集まっていく。よく見ると令嬢の指から少し血がにじみ出ていた。

「何なんですのこれは、少し触っただけで指から血が出るなんて、誰か何とか言いなさい!!」

玲奈は急いで令嬢の前まで行くとポケットからハンカチを取り出し、令嬢の手をとった時『パチン』と乾いた音が響いた。

玲奈は驚き何が起きたのか一瞬分からなかった。そこで、自分の右手の甲が赤くなっているのに気づき、目の前にいた令嬢が玲奈の手を払いのけるため叩いたのだとわかった。

「あなたなんかの汚らしいハンカチで、わたくしの手を拭かないで下さる」

玲奈は右手の甲を気にする風も無く令嬢を見つめていた。


この令嬢どこかで会ったことがあるような……?

あっ……。

A&B百周年記念パーティーで赤いドレスを着ていた令嬢だわ。

あの時もみんなの前で騒ぎ立て、萌さんを貶めようとしていたっけ。

隣を見ると萌も思い出した様で、真っ青な顔をして固まり震えていた。

「山口くん萌さんをお願い」

涼は玲奈の言葉と萌の様子に何かを察し、萌の前に立つと後ろへと隠した。

玲奈はそれを確認し、背筋を伸ばすと令嬢へ向きなおった。

「申し訳ございません。指の方は大丈夫ですか?」

「全然大丈夫じゃないわよ。少し触っただけで指が切れるなんて、どうなっているのよ。不良品じゃなくて!!」

「いえ……そのようなことはございません」

どうしてこんなことになってしまったのか……。


玲奈が言葉に詰まっていると、翔真が玲奈の耳元へ口を寄せ耳打ちした。

「一条さん、この人無理矢理つぼみの花を開こうとしたんですよ」

やっぱり……。

「お客様、つぼみの状態の花を無理矢理開こうとしませんでしたか?」

「無理矢理って……少しつぼみを開かせようとしただけじゃない」

開かせようとしたことは認めるのね。