少年が目覚めると、視界に映るのは真っ白な世界だった。拘束されている感覚に違和感を抱き、やがて一つの結論にたどり着いた。

 ここは病院だった。少女が搬送された時と同じ、市立総合病院だ。

 ぼくは生きていた。生かされていた。

 あの時のきみもこんな風に、病室のベッドで、必死に命を繋げようと頑張っていたのだろうか。

 あと少し。あと少しで、きみに会えそうなのに、まだ届かなくて。この手は行き場を失ったまま、力なく宙をもがいた。

 ひび割れた懐中時計の長針は、四十三分を指していた。


 あれから数ヶ月が経過した。少年は幸いにも事故の後遺症なく、無事に退院することが出来た。

 その間にも世間の時は止まることなく進み、あと数日で新年を迎える。

 きみと過ごした時間が、刻々と遠ざかっていく。

 忘れたくない。思い出にしたくない。

 こんなにも願っているのに、どうして神様に届かないんだ。

 けれど、少年の願いは虚しくも、叶うことはないままに、時は流れていった。