少年は再び夢を見ていた。

 今度こそ、ぼくはきみを救いたい。
 強く、強く、そう願った。

 少年は病院にいた。少女が救急搬送された病院だった。少年の近くには、とり乱し、泣き崩れている少女の母親と、その肩を抱き気を落ち着かせようとしている父親の姿があった。

 ──娘を、娘を、どうかお助けください。神様。

 涙に濡れた声で、何度も何度も必死に祈りを込める母親の両手は、強く握り合わせ過ぎたせいで、皮膚に爪が食い込み、鬱血していた。

 父親の乱れた前髪と、ネクタイのよれたスーツ姿は、おそらく、連絡を受けてから脇目を振らずに、病院へ向かった証拠だろう。

 ぼくはここで何が出来るのだろう。

 見守ることしか出来ないのだろうか。

 少年は願い、祈る。

 ぼくの命を半分にしてもいい。

 ぼくがこの先、少ししか生きられなくなったとしても、きみに会えるなら、それで構わない。

 きみのために、ぼくは捧げるよ。

 上着のポケットに入っていた懐中時計から、パキッと音が聞こえた。取り出すと、文字盤のガラスに、大きなひび割れが走っていた。

 いつ、割れてしまったのか。事故の衝撃で、ひびが入ってしまったのか。どちらにしろ、この懐中時計の寿命も、永くはないのかもしれない。