そこで、夢は途切れた。

 少年が目覚めると、懐中時計の長針は三分を指していた。

 嫌な夢だったと、ぼくは思う。

 夢の中でさえ、ぼくはきみを救えなかった。

 あの時、きみはどうして、悲しそうな、泣き出しそうな表情をしていたのだろう。

 ぼくにはその理由が分からなかった。

 そして、懐中時計の秒針は、また止まってしまった。やはり、この懐中時計は故障しているらしい。

 
 数日後。少年は懐中時計を上着のポケットに入れて、自転車で出かけた。

 少女の両親が、この街から引っ越すことを決めたようだった。

 だから、最後に挨拶をしたかった。

 いつかは、来てしまうだろうと覚悟していた別れは、唐突に訪れたのだ。

 きみの面影が、この街から消えてしまう。

 ぼくはきみに会えなくなってしまう。

 焦りや悲しみがない交ぜになったまま、無我夢中で自転車を走らせていると、一時停止を無視した自動車が、住宅街の狭い十字路をスピードを落とさずに、通過しようとしている。

 寒さで悴んだ少年の手は、自転車のブレーキをかけるタイミングを逃した。

 下り坂でスピードが出ていた少年の自転車は、すぐには停まれなかった。

 閑静な住宅街に響き渡ったのは、鈍い衝突音と自動車の甲高い急ブレーキ音だった。

 少年の意識は薄れ、やがて閉じた。