少年は気分が優れず、授業を早退した。

 冬の前触れを感じさせる鋭い風が、身体を震わせる。昼前の公園には誰もいなかった。

 冷えた木製のベンチに腰を下ろして、空を眺める。憎たらしいほどの晴天だった。

 あの日は……雨が降っていた。

 いつも、思い出してしまうのは、きみのことばかりで、ぼくはまだあの日から一歩も前に進めていない。情けなくて笑えてしまう。

 きみはこんなぼくをどう思うのだろうか。

 幼さを残した笑顔で、「だいじょうぶ」って優しく言ってくれるだろうか。

 今日はもう帰ろう。ベンチから立ち上がり、歩き出したとき、少年はある物を見つけた。

 砂場に半分だけ姿を見せるように埋められていたのは、銀色の懐中時計だった。



 太陽に照らされ、鈍く光を放つ懐中時計に、少年は目が離せなくなった。

 拾い上げて、よく見ると、懐中時計の蓋には細かな彫刻が刻まれていて、素人目に見ても高価な物だと分かった。
 
 誰かの落とし物かもしれない。
 交番に届けたほうがいいだろうか。

 逡巡した後、少年は近くの交番へ懐中時計を届けた。