「それで?今のはひなこの作曲だったの?」

「まさか」


あたしは笑って首を振った。


「今日、学校で聞いたのが忘れられなくて。お母さんは今みたいな曲、聞いた事ない?」

「さぁ・・・ピアノ曲は色々知ってるけど、聞いた事ないわ」

「そっか・・・」


やっぱり、昼間聞いたのは弾き手のオリジナルに違いない。

あんな凄い弾き手がうちの学校に居るなんて、ちょっと信じられなかった。



「もぅ、折角なんだから・・・ひなこもピアノやれば良いのに」


ピアノの蓋を閉じながら、母が淋しそうに言う。


「ピアノはあるんだし・・・」

「あたしは駄目。センスないもの」


あたしは苦笑いして首を振った。


この家に住んですぐの頃、航平と2人でピアノを教えて貰った事がある。

その時、驚くようなスピードで技術を習得していく航平と比べて、あたしは、自分の才能の無さに愕然とした。


それからピアノには触れていない。

母の気持ちも分からないでもないけれど、もう一度ピアノを習う気にはなれなかった。