「お待たせ、ひなこ。帰ろ」


ニコニコ笑いながら窓ガラスをノックしているのは、クラスメイトで幼馴染の堤 航平(ツツミ コウヘイ)だった。

毛先がくるっと飛び跳ねた、焦げ茶色の柔らかそうな癖っ毛に通った鼻筋。

くっきり二重に綺麗に上がった口角は、いつも優しく微笑んでいるように見える。

男のくせに、その辺の女子より整った顔立ちだ。


陸上部に所属している航平は、帰宅する時は大抵ジャージ姿。

今日もスポーツバックを斜め掛けして、スポーツドリンクのペットボトルを手にしていた。


「そろそろ帰る時間でしょ?」


あたしが窓を開けると、航平はサッシに手を付いて身を乗り出してきた。


あたしより頭1つ分は確実に背が高い。

身を乗り出して近付いてきた航平の髪からは、シャンプーと、ちょっとだけ汗の匂いがする。


こんな顔してるのに、やっぱり男子だなぁ・・・


航平を見上げながらそんな事を考えていると、航平はにこにこ笑いながら、返答を促すように首をかしげた。


「ひなこ?もう暗くなるよ?」