沙奈は、ゆっくり話を続けてくれた。
「だから、嫌なの。
私、今まで自分の過去を話すことがなかったから、そんな幸せが変わってしまうのが辛いの。」
沙奈は、そう言って俯いてしまった。
そんな思いがあって、あの日俺達に着いてきてくれたんだな。
でもな、沙奈。
何を沙奈の口から聞いたとしても、俺の沙奈に対する気持ちは何ひとつ変わらない。
「大丈夫。
沙奈。安心して。
俺は、沙奈の口から過去の話を聞いたとしても何も変わらない。
過去に何があったのか聞いたのは、沙奈のペースでゆっくり乗り越えてほしいからなんだ。
そのためにも、自分が沙奈に何があったのか知らないとなにも出来ないだろう?
大切な沙奈の力になれないことが、辛いんだ。
俺は、沙奈のこと可哀想って思ったことは無いよ。
そんな無責任な感情は、沙奈を見つけた時から抱いていないから安心して。
俺はさ、一緒に背負っていきたいんだ。
これからも一緒に生きていくためにも、沙奈の力になるためにも、沙奈のことを知りたい。
ただ、それだけなんだ。」
可哀想なんて、思う訳ない。
そんな感情は、抱くことは出来ない。
きっと、そんな感情がなかったから俺はあの日沙奈を引き取ろうと思ったのかもしれない。
これは、完全に俺の考えだけど可哀想っていう感情は、赤の他人だから抱ける感情だと思っている。
自分には関係の無いことだからという気持ちからそういう感情が出てくるのだと感じている。
可哀想なんて、ただの同情にしか過ぎない。
そんな無責任な覚悟で、俺は沙奈を引き取ったんじゃない。
「紫苑…。」
俺は、沙奈を自分の膝の上に乗せて小さい沙奈の体を抱きしめた。
「沙奈、ゆっくりでいいよ。
話したくなかったら、また後ででもいいから。
沙奈のタイミングでいい。
だけど、少しずつ前を向いて生きていこう。」
俺は、沙奈の歩む人生に歩幅を合わせて一緒に生きていきたいと思っている。
今すぐに、過去に何があったのか聞き出そうとしたのではない。
沙奈が話せるまでは、ずっと待とうと思う。


