事件当時、リランは宮殿に逗留していた。宮殿内に保管されている古文書を調べたいというのがその理由であり、そこに疑問をもつ者はいなかった。

そして唐突に、事件は起こる。

皇帝が宮殿を離れていたある日、私兵団を引き連れて後宮に侵入したのだ。
相手が相手だけに、衛兵も宮女たちも慌てふためくだけで、なすすべがなかった。
「皇弟殿下も、陛下と同じ赤い髪をしていらっしゃるの。陛下と同じ色の髪をなびかせて、我が物顔で後宮を闊歩されるあの方を、誰も止めることなんてできなかった」

エレオノア姫はその時、後宮内の書庫にいたというが、なぜか彼女のいる場所をリラン一行は正確に把握していたようだった。
使用人達には目もくれず、迷いない足取りでエレオノア姫の補足に向かった。

そこに唯一立ちはだかったのが、導師セレマイヤだった。
自分が宮殿を空ける際の後宮の守りを、選り抜きの導師に託した。皇帝の過保護ともいえる寵姫への配慮が、結果的に吉と出た。