魔界の華は夜に咲く

それから一時間後、ようやくお腹が落ち着いた頃合いのセンジュは浴場を目指していた。
が、簡単に迷った。


「・・どこ」


部屋を出て左に向かうハズが、適当に右へ歩いてしまいそのまま廊下をまっすぐに歩いて迷子になった。


「どうしよう・・引き返そうかな。セヴィオの話ちゃんと聞いとけばよかった。出て右だっけ?左だっけ?」


戸惑いながら歩いていると厨房が見えた。
皿を洗いながら侍女達が会話している様子が目に映った。


_あ、さっきの侍女さん達だ!お風呂場まで案内してもらえるかな?


「ええ?なんて??」


ピタリ。
声をかけようとしたが、侍女達が妙な雰囲気だったのでセンジュは寸前で止まった。


「え!?セヴィオ様に拒否された!?」


ドキンッ
その言葉に思わず壁に身を隠したセンジュだ。


「そうなのよ。それでこの子落ち込んでるの」

一人浮かなそうな侍女が皿を見つめながらため息を漏らしている。
侍女は3人いて、ベテラン風の女性と若い侍女が会話していた。
思わず固まってしまい聞き耳を立ててしまった。


「まあまあ、今日は城の姫様もいらしているし、暴動の件もあってお仕事中ですもの。そんな気分ではないのでしょうよ」


ベテランの侍女はあきれ顔で笑っている。どうやらいつもの他愛ない井戸端会議らしい。
それにしがみつく様に若い侍女は訴えた。


「でもとてもお辛そうで・・ご奉仕して差し上げたかったのに」

「辛そうって?」


こくり。と侍女は残念そうに頷く。


「切なそうなお顔をされていて思わずお力になりたいって声をかけてしまったのだけど。まさか断られるなんて思わなくて。
いつもなら気軽に抱いてくださるのに」



ズガン__
と、その言葉にセンジュの脳内に大砲が打たれた。錯覚だが。



_だだだ抱いてくださる!?しかも気軽に!?


「何かおありになったのよ。暫くはそっとしておいてあげましょう。
明日にでも元のセヴィオ様に戻られるわ」

「うん・・そうよね。そんな日もあるわよね」

「そうよ!セヴィオ様はお優しいもの」

「ありがとう2人とも」

と意気投合していた。
最後には和気あいあいとしていた。



_何?なんて?なんですか今の会話。もの凄く聞いてはいけないものを聞いてしまった感じ。



落ち込みながら忍び足でセンジュは元の道に引き返した。