「・・うぅ・・はっ!?」


目の前でフォルノスが真っ赤に燃えた。
恐怖で意識を失ったセンジュはその夢にうなされ目を覚ました。
起き上がり辺りを見回すと人間界のとある場所で倒れていた様だ。


「ここは・・あ!」

「・・目が・・覚めたか・・」


脇腹や足から血を流し、苦しそうにしているウリエルを見つけた。


「ここ・・何処!?」

「さあ?咄嗟に人間界に入ったからな・・知らぬ場所だ」

窓から外の様子を見ると目の前は森だった。
どうやら使われていない山小屋らしい。ソファーや暖炉など所々埃が被っている。


_フォルノスは大丈夫かな?他の皆は・・?私これからどうなっちゃうの?


どうしたらいいのか見当もつかず、センジュはウリエルの近くに戻った。


「何を知ってるの?ママとパパの事・・」

「まあ、待て・・話したいのはやまやまだが・・今、生きるか死ぬかの瀬戸際だ」

しかしセンジュは容赦なかった。
自分も切羽詰まった状態だった。


「死ぬならその前に教えて!なんでさっき・・パパがママを殺したって言ったの?」


ゾクリ・・
自分で放った言葉に恐怖で背筋が震えあがる。


_パパが・・ママを・・。そんな事・・絶対に信じたくない。



「やれやれ・・手厳しい・・な」

ウリエルは横になっていたが、ゆっくりと起き上がった。

「17年前・・魔王は我らと争いを繰り広げていた」

「それは知ってる・・そこでパパとママは出会ったって」

「そうだ・・それは偶然ではない」

「え?」

「お前の母は、天界の者だ。・・俺の妹だ」

ウリエルはセンジュの頭をポンとひと撫でした。
痛みで顔を歪ませながらもウリエルは微笑んだ。


「え・・え?」

「人間を装い・・魔王に近づいた。天界の者だ」

「そ・・」


_それじゃ私・・・は。


センジュの顔は真っ青に青ざめた。
血の気が一気に引いた。


「そうだ、お前は天界人と魔族のハーフとなる」

「わたし・・人間じゃ・・なかった」

こくりとウリエルは静かに頷いた。

「魔王の力を半減させる任務の為、妹は魔王に近づいた」

「・・そんな」


_全部仕組まれていたって事?私が生まれる前から。パパを陥れる為に。


「そんな・・酷いコトを」

「しかしな・・妹をおかしくしたのも魔王だ」

「え?」

「お前を産ませた」

ドキン


「俺はそれだけは駄目だと言った。しかし・・俺の言うことをを聞かなかった。立派に洗脳されたよ」

「それって洗脳じゃなくて、ただパパを好きだったんじゃ・・」

「相手は魔王だ。自分が天使だとバレたらどうなるか少し考えればわかるだろう」

「それは・・そうだけど」


先日、天使が一瞬にして消されたのを間近で見ている。それほどに魔王は天使に対して容赦がない。


「それにな、天界の者が魔族に惚れる?あり得ない。それだけはあるハズないんだ」

「どうしてそう言えるの?」

「本能で拒否する。見ただけでな。俺達はそう作られている」

「・・・」


センジュは俯いた。
ただただショックだった。


「だから・・パパはママを殺したって言うの?」

「初めはアンジュを人間だと信じただろう・・だが恐らく何かのタイミングでバレだのだろうな。だから殺したんだ」

「そんな・・」


_あんなにママの事を思い出すと幸せそうにしていたのに?私にずっと隠していたって事?


やるせない気持ちに拳をいっぱい握りしめた。


「そうだ。お前・・魔王の力は次いでないのか?」

「力なんか一回も出た事ない・・人間だと思ってたし。訓練しても何も・・」

「そうか。では、天界の血が濃いのではないか?」

「・・え?」

「俺の妹の血が。そうだな、試しに俺の傷に手を当ててみろ」

腕を掴まれ、傷に手を当てられた。


「指先に力を込めてみろ」

「・・・え」


ぞっとした。初めて見る自分の力に。
指先が温かくなったと思うとウリエルの傷がみるみる消えてゆく。
傷を治す力。手に入れたかった力だ。
しかし魔族には無効だろう。


「そんな・・・」

「魔界では我らの力は半減される。今まで力が出せなかったのもそのせいだろうな。使う対象も魔界には存在しないだろうが」

「そんな・・・そんなの・・」


_嫌だ・・・。


ボロボロと一気に涙が溢れてきた。
四大魔将の4人の顔が浮かびあがったからだ。父の笑顔も。
その笑顔が崩れて消えてゆく。


_私は皆の敵だったんだ。


「私・・こんなの・・嫌だ」


楽しかった日々が壊れていく。
自分を知った瞬間に。
震えて動けなくなったセンジュをウリエルは抱きしめた。


「自分が天使である事をアンジュは申し訳なさそうにしていた。お前にな」

「・・ママ」

「だが、愛は確かに注いでいただろう?お前を一番にいつも思っていたハズだ」

「・・ん・・うん」


_ママ・・こういう事だったんだね・・そうだったんだ・・。


落ち込みきったセンジュの背中をウリエルは力強く撫でた。


「お前のおかげで回復した。天界に向かおう」

「ママに・・会える?」

「ああ。会わせてあげよう。魂だけでも今なら話も出来るだろうし。実は俺も天界ではまだ会えてないんだ」


_そっか。ようやくママに会えるんだ。パパも優しくて魔界も楽しかったけど・・やっぱりママに逢いたい。それから・・もっと真実を知りたい。