城に着き、馬車から2人は降りた。

無言だ。

長い廊下を静かに歩く。

前を歩くセヴィオを見つめながら、センジュは戸惑っていた。


_ど、どうしよう・・凄く本気の目をしてた。私・・セヴィオと?でも、そんな覚悟・・私には・・。


俯き、考えながら歩いているとあっという間に自分の部屋の前に来た。


「入れよ」

「あ、うん」


近くに侍女のリアがいたが、セヴィオは手で入って来ない様に合図した。


ドキン



ドキン



ドキン



ドキン



緊張で胸が大きく起伏する。

思わずセンジュは話を変えようと試みた。

「えっと・・今日は訓練とかするの?」

「あ?ああ、そうだな」


その言葉を聞いてセンジュはホッと一安心のため息を漏らす。

「じゃあ着替えなきゃ」

「ん」

出ていってもらおうと思った瞬間、セヴィオはセンジュの背後から抱きしめた。


「セ・・ヴィオ?」

「服、脱がせるわ」

「えっ」


ワンピースの背中のホックを外し、首筋にキスを落とす。

くすぐったい感覚がセンジュを襲った。


「あ、あの・・っ」

「なに」

セヴィオは続ける。

パサリ、とワンピースは床へ落ちた。


「あの・・本気・・ですか」

思わず敬語になるくらい気持ちに余裕がない。

声も上手く出せない。


「うん、俺もちょっと余裕ない」

「じゃ、じゃあ・・」


振り向いた瞬間に唇を奪われる。

「ふ・・んっ・・っ」

心臓が一気に高鳴った。爆発しそうだ。

「ま・・っ・・」

「悪いけど・・マジだから」

そのままベッドへと連れていかれ倒された。

目の前には真剣な顔のセヴィオが見える。

「セヴィオっ・・こんなの」

「嫌か?」


ドキン


「俺、誰よりもあんたを大切にする。あんたの為なら命も張れる」

「で、でも・・」

「なんて、他の男も同じ事言うだろうな。結局・・最後に決めるのはあんただ」

「・・・」

反論出来る余裕はない。

頭が真っ白で言葉が出てこなかった。


「でも、他のヤツに取られるのはもっと嫌だ・・あんたに他のヤツが触れるなんて・・耐えられない・・それくらい俺はあんたが欲しい」

完全なる嫉妬をさらけ出した。

これが『フォルノスの恐れていた事』なのかとセンジュは思った。


_セヴィオの気持ちを受け取ったら、他の人はどうなるの?同じ様になってしまうの?1人だけ決める事なんて私に出来る?


そんな恐怖が脳裏によぎる。


_最後に私が決めるしかない・・・でもその最後っていつ?



そう思った瞬間、心を殺すしか方法がないと思った。


ギュッ
とセンジュはセヴィオを強く抱きしめた。


「・・センジュ?」

「わかった・・いいよ」


セヴィオの目が見開いた。


「でも・・セヴィオに決めるワケじゃないよ?それでも・・いいの?」


その冷えた言葉を受け取ったセヴィオは眉を一度しかませたが、目を閉じ頷いた。


「今は・・それでいい。それくらいあんたが欲しい」

「今後、私は他の人にも抱かれるかもしれない・・それでもいい?最後に私が誰を選んでも後悔しないでくれる?」

「・・センジュ・・」

「だったら・・いいよ」

心のない言葉、感情のない言葉だった。

センジュらしくない言葉に、セヴィオは強く抱きしめた。


「ごめん・・そんな事言わせるつもりなかったのに・・」

「・・・」

「ごめん・・」

後悔しているセヴィオの声を聞いた瞬間に我慢していた涙がじんわりと溢れた。


「ごめんねこんな事言って・・私・・セヴィオの事、好きだよ」

「ホントか?」

「うん・・いつも私を元気にしてくれる。一緒にいると楽しい」

その言葉にセヴィオは救われた。

どん底に落ちた気分だったのだ。嫌われたとすら思った。


「真剣だったから・・私も真剣に答えなきゃって思った」

「・・そか」


セヴィオはセンジュを抱きしめたまま横になった。


「あー、ガキっぽい・・」

「フフ、私もだよ」

「きっと馬鹿にされるんだ。ガキのままだって」

「私は別に・・急に大人ぶらなくてもいいと思うけどな」

「あ?なんで?」

「だって、今は今しかないんだし。今も大事にしないと」

「クク、言ってる事おばさん臭いけど」

「ええ!?酷い!」


目と目が合って、ようやくいつもの雰囲気に戻れた気がした。

思わず2人笑ってしまった。


「ククク・・ハハ・・あーあ。あんたに俺の色気は通じないか」

「え?色気?さっきの雰囲気の事?アハハ」

「なんだよ。真剣だったのに」

「その真剣さに驚くんだよ、いつものセヴィオじゃないって」

「あ!?マジ!?」

「クスクスクス・・」


失敗したと思ったセヴィオだ。悔しくて顔をしかめている。

「じゃあ、ニコニコしてる方が良いって事?」

「そっちの方がセヴィオらしくて好きだよ」

「マジか・・わかった。じゃあそうする」


_その素直に受け取るところが良いなって思うんだよね。本人は気づいてないけど。


笑っていると、セヴィオはセンジュの腰をくすぐった。


「ちょ・・ははっ・・まっ・・何ははは」

「許さねえ!俺を馬鹿にして」

「してないっははは」


セヴィオの心もすっかり晴れた。軽くなった気がした。


_そうだよな。俺はあんたのその顔が好きなのに。欲望むき出し過ぎたな、俺。ホントまだまだガキだ。


「あんたが困る事はしないから」

「え?あ、ありがとう」

「だからずっと・・笑っててくれ」

「セヴィオ」


にっかりと笑ったその顔は少し寂し気に見えた。

セヴィオの脳裏に天使の事が浮かんだのだった。


_これからでかい事が起きそうだし。悔いだけは残したくねえからな。


「なんか意味深な感じなんですけど」

「は?いやいや違うって」

「ふーん・・」


じーっと見つめられ、セヴィオは目を背けた。


「あんた、気がついてないと思うけど・・結構隙だらけな上に魔性の女だよな」

「へ?どういう事?」

センジュは首を傾げている。


「だからー、そういう事するから男が黙ってねえんだっての!」

もみもみもみ。
とセヴィオは目の前にあったセンジュの胸をこれ見よがしに揉んだ。


「ひゃあっ!?」

本人も忘れていた。

ワンピースを脱がされ下着同然だったのだ。

慌ててシーツを体に包んだ。


「そんな谷間寄せてくるって事は、ヤってくださいって言ってる様なもんだろ!」

「ち、違う!」

「ちがくねーわ!あんたのせいだ全部」


_ようやく気持ちが収まったってのにこの女は!


思春期真っ只中のセヴィオだ。気が気じゃない。

急にセンジュに対して怒りが芽生えた。隙だらけすぎる。

そしてなんと言っても可愛すぎる。

襲おうと思えば簡単に出来るのだ。

「うぅ」

センジュはしょぼくれている。本人は無自覚だ。

「そんな事言ったって・・」

「だから、俺にしろって言ってんのに」


怒りながらもセヴィオはセンジュの頭を撫でた。

それがセンジュには嬉しかった。


_優しい・・頭撫でられるのって・・気持ちいいな。


嬉しくてトクトクと脈が速くなった。


「セヴィオ・・いつも、ありがとう。本当に感謝してるよ」

「あ?・・おう。なんだよ急に・・」


ふんわりと笑うセンジュの笑顔。

くらりと一瞬めまいがした。


_・・ったく。駄目だその顔、もう無理。


耐えきれずセヴィオは顔を近づけた。


「・・ん」

「・・・」


ゆっくりと時間が流れた気がする。

優しく触れ合った唇はマシュマロを思い出させるくらい柔らかかった。

センジュも素直に受け入れた。受け入れていいと思うほど、優しいキスだった。


「今は・・俺だけのセンジュだ。いいだろ?これくらいは」

「・・・ん」


甘える事にした。

拒否しても良い事など一つもないと思った。

ずっと、セヴィオと仲良くしていたい。

心を許せる大切な人だと思った。