「よおよお!来ないのかと思ったぜ!」

と元気よく手を振ってくれたのは元ごろつき達のリーダーのガルシアだった。

「あ、こんにちわ!ガルシアさん」

「姫さんも来てくれたのか!この前はすまなかったな」

「いえ、こちらこそ・・ケガは大丈夫でしたか」

「ああ、この通りよ!」


すっかり癒えた傷を勲章の様に見せ、炊き出しの準備をしている。
大きな鍋にぐつぐつとスープが煮えていた。


「あんたらとフォルノス様が支援してくれたおかげで大分景気が良くてな。こうやって毎日炊き出しも出来るし、最近じゃ孤児も元気に走り回ってるし。ホントにありがてえよ」

「センジュがやりたいって手を上げたからだ。あんたのおかげだな」

「そんな事ないよ。私、お金だって持ってないし・・皆が支援してくれたから出来たんだよ」

ガルシアは豪快に笑った。

「ハハハ!あの冷酷で噂のフォルノス様が支援してくれるって聞いた日にゃ、驚いて暫く腰が抜けてたけどな」

「そりゃ信じられねえよな」

「うんうん、怖かったな、さっきも」

クロウとコーマは震えている。


「この間姫さんと一緒に来た時もいきなり姫さんの頬にビンタして、あの人はやっぱ普通じゃねえな」

「は!?あいつ、あんたの事殴ったのかよ!?」

その話にはセヴィオが血相を変えた。勝手に手から炎が零れそうな程だ。


_うわわっそれは言わないで欲しかったヤツ~~~っ


慌ててセンジュは弁解する。


「違うよアレは私がもたもたしてて・・判断を煽ってくれたの。あれが無かったら上手く行かなかったし」

「あー、まあ、鬼教官て感じだったな。ハハハ」

「フォルノスは私に王女らしく居られる様にって色々教えてくれてたの。その一環だからっ」

それでもセヴィオの怒りは収まらない。

「だからって手を上げるなんて・・ないわ。うん、ない」

「大丈夫だから!あの時だけだよ。それに私もフォルノス叩いちゃった事あるし」

「え!?あの人を!?すげえっすね姫様!!」

「流石っす!」

「それが出来るの姫様だけっすね!」

ゼンとコーマ、クロウはセンジュの勇気に感動している。


「あー気分悪い」


セヴィオは今日一番で機嫌が悪い。さっき睨み合ったのも効いている。


_あいつ、本気の目してやがった。本気でセンジュを・・。


凍るような銀の瞳でセヴィオを威嚇してきたのだ。
セヴィオも冷静で居られない程強烈な印象だった。


_くそ、腹立つ。絶対に許せさねぇ。


ガルシアが申し訳なさそうに話題を切りかえた。

「俺にとっちゃあんたら全員、命の恩人だ。本当にありがとうな。ここに住む奴らの代表として礼を言わせてくれ」

「いえ・・こちらこそありがとうございます。お話を聞いてくれる人達が居て良かったです」

「ねえ、ごはんまだー?」

「早くたべたーい」

子供たちがワクワクしながらスープを見つめている。
待ち遠しそうによだれを垂らしている幼い子もいる。


「こいつらの住処も新しく作ってくれて、服も靴もあって・・ここはどんどん変わっていく。俺もこいつらの将来の為に頑張らねえとな」

「はい、よろしくお願いします、ガルシアさん」

「ああ。今日はゆっくりしていきな」

「姫さまこっちこっち~」

「うん」


ガルシアが皿にスープを盛り子供たちに渡すと、子供たちはセンジュを連れてベンチに座った。
ゼンとコーマとクロウにセンジュの護衛を頼み、セヴィオはガルシアと2人でセンジュを遠く見つめながら話した。
ガルシアは半分嬉しそうな、半分切なそうな顔でセヴィオに告げた。


「正直なぁ、まだこの街には魔王様のやり方に反抗的な輩もいる」

「だろうなそれが由来のスラムだ・・悪党が隠れるにはもってこいの場だもんな」

「ああ、あんたの部隊やフォルノス様の部隊がある程度調査してくれたんで、今のところは平和に見えるだろうが、後々また徒党を組むかもな。その前に俺はガキ共を連れて移住出来る算段を立てている所だ」

「そうか、いい決断だと思う。・・あんたは最近、裏・四大魔将ていうヤツらがいるのを聞いた事あるか?」

「ああ、ちっとだけな。きっとこの街の腐った奴らと繋がってるんだろうな。・・ただ誰も姿を見た事がないんだろ?」

「その件があったから、本当はセンジュの存在は住民に知られてはいけなかった。成り行きでこうなっちまったけど・・本当は今日も連れてくるのも躊躇したんだ」

「そうだったか。そりゃ悪い事をした。本当に・・俺も腐ってた・・」

「いや、俺も浅はかだった。四大魔将を名乗っておきながら・・まったく爪が甘かった」

自分の行いに憤りをずっと感じていたセヴィオに、ガルシアは申し訳なさそうに頬を掻いた。

「あんたは若いのに四大魔将に選ばれたんだ。魔王様がその力を認めてくださったんだ。そのまま真っ直ぐ成長すればいいだけだ。俺みたいな奴に言われても嬉しかないだろうが」

「いや・・あんたは俺よりも長く生きてるし経験もある。言葉に重みがある」

「ハハハ・・大魔将様にそんな事言われるなんて光栄だぜ。じゃあもう一つだけ言わせてくれよ」

「なんだ?」

「あんたはあんたらしくいればいいんだ」

ガルシアに言われてハッと思い出したのはフォルノスの顔だった。
現状では到底かなわない。だが越えたいという気持ちはずっと心に秘めたまま、今までずっとフォルノスを見上げていたからだ。


「俺らしく・・」

「そうだ、あんたのやり方で姫さんを護ればいいんだ」

「そうだな・・ありがとな」


センジュが繋げた縁でセヴィオもまた少し心を救われた。
前向きになれた。怒りや劣等感が消えた。


「センジュは出会って間もない頃、俺に生きる意味を教えてくれたんだ。命を捨てるなって。魔王様に消されてもおかしくない状況だったのに・・だからここにこうして居られるんだ」

「・・そうだったか。やっぱ、姫さんは偉大なお人なんだな」

「ああ、だから何が何でも守ってやりたいんだ。俺があいつを」

「俺はあんたを応援するぜ?四大魔将の中でも一番に」

「ハハッ・・よろしく」


2人が頷いていると、センジュが呼びにきた。


「セヴィオもガルシアさんも食べようよ。すっごく美味しいのこのスープ!おかわりしたい!」

「あ?ああ。確かに美味そうな匂いだな」

「俺は元・料理人だからな。味は街一番だぜぃ」

「なんで料理人がごろつきになるんだよ」

「店が潰れたからに決まってんだろう」

「あ、そ」

「軽いリアクションだな」

「この話を楽しくさせる方が無理あるだろ」

他愛もない話で大盛り上がりした。