スラム街の入り口に到着すると、セヴィオの友人3人が出迎えてくれた。
ゼン、コーマ、クロウがこちらを馬車を見つけ手を振っている。

「よお、今日はありがとな」

セヴィオが礼を言うとゼンが早速肩を組んだ。

「全然いいよ。ていうかさ、お前に朗報持ってきたぜ。俺とクロウ、来月から城に配属されるんだ」

「マジ?何処の配属?」

「お前の下に決まってるだろー」

「は?なんで?足りてるんだけど」

冗談交じりで拒否したセヴィオに対し、ゼンとクロウは自慢する様に肩を組みあった。

「ぷはは、ひでえな~。お前を差し置いて他の大魔将様の下についても良かったんだぜ?俺達院から配属されるから優秀枠なんだからな」

「そうだよ!でもまあ、噂でフォルノス様だけは避けろって聞いたけど。なんでも気に食わなかったらすぐに消されるって?」

というクロウの言葉にセンジュは咳きこんだ。

「う、ごほっ」

「え?噂ってホントなの?」

センジュの反応を見てクロウは青ざめたが、センジュがすぐに撤回した。

「そ、それは違います。もう、きっと大丈夫・・だと思う、多分・・おそらく・・うん」

「やっぱ噂どおりじゃん!ひええっ」

「あぶねー!ちょっと迷ったんだよな!何も考えないヤツは真っ先にフォルノス様の所に行くらしいって聞いてさ。賃金が一番高いから」

ゼンも肩を撫でおろしている。
それを聞いてセヴィオはただただ苦笑している。


「まあ、やり方は色々あるだろうけど。俺だって厳しいからな」

「え!?そういう感じ?」

「あたりまえだろ!城であんまり馴れ馴れしくするなよな。変な真似したらソッコーでフォルノスのとこに転属させるからな」

「なんだそれ!ひでえよ親友だろ??」

「あはは」

肉屋のコーマはずっと笑っている。

「入ったばかりって事は一番下っ端なんだから、危ない役も買って出るって事だろ?覚悟しろ?」

「何それ聞いてないんだけど!?」

「俺は今日知ったんだが?」


相変わらず楽しそうな会話にセンジュは癒された。


_この4人のノリ、本当に好きだな。一緒にいて楽しい。こっちまで嬉しい気持ちになるな。


いつの間にか笑っている自分がいる。
自分らしく居させてくれる場所に思えた。
それを見てセヴィオは閃いた。


「んじゃ、お前らが城に来たらセンジュの護衛を一番に頼もうかな」

「お、いいね!」

「その方がセンジュも安心するだろ?」

「セヴィオ・・うん。そうかも」


セヴィオの配慮が心に染みた。
いつも思いやってくれる。
思わずきゅんとしてしまった。


「姫様~!よろしく頼みます!」

「俺達マジで頑張るから見捨てないでっ!」

「こちらこそ、よろしくです」


センジュが照れながら頷くとゼンとクロウはぽっと頬を紅くしていた。
センジュの微笑みにノックアウト寸前である。

「うわ~っ光栄すぎる!」

「いいな~セヴィオはいつも一緒に居られるんだろ?」

「はあ?いつもじゃねえよ。他にも仕事が山ほどあるんだからな。やっぱこいつら不安だわ、俺」

というやり取りを皆がら1人寂しそうにしているコーマ。

「くそー。俺も肉屋継ぐんじゃなくて兵士やればよかった」

「お前は肉を提供してくれればそれでいいんだ」

「そうだそうだ」

「なんか疎外感を感じる」

「私はコーマさんのお店にも行ってみたいです」

「ひ、姫様・・女神や・・」

とても楽しい雰囲気が辺りに漂った。
が、それは一瞬にして凍りついた。


「お前達、何やってる。恥を知れ」


ドキッ
冷たく低い声が背後から聞こえ、4人の体が硬直した。
建築物の屋根から聞こえてきたのはフォルノスの声だった。


「フォルノス!?」


センジュも当然驚いた。まさか同じ場所に来ているとは思わない。
セヴィオがセンジュを背後に隠す様にフォルノスの前に立ちはだかった。
敵意むき出しだ。

「なんだよ、あんたもいたのかよ」

「ああ。様子を見に来てみれば・・見たくもないガキのじゃれ合いを目に入れてしまった」

「んだよ。勝手に表れたのはあんただろ」


セヴィオの前にふわりとフォルノスは降り立った。
ジッとセンジュを見つめている。
その視線が気に入らなかったのはセヴィオだ。


「今日は俺が護衛だ。邪魔しないでくれる?」

「俺は自分が支援した場所の確認に来ただけだ。もう城へ戻る」

「あ・・」

その言葉にセンジュはぴんと閃く。


_そっか、スラムが生まれた場所って言ってたし、もしかして実家とか見に行ってたのかな?


「フォルノスも子供たちの所に行く?今から皆で挨拶にいくの」

「いや、子供は好かない」

「・・そうなんだ」


しょぼん。としたセンジュの手をセヴィオはおもむろに握った。

「こんなヤツ気にする必要ない。誰にだってこうなんだから」

「確かに俺は他人に興味はない。煩い奴も嫌いだ。慣れ合いもうっとおしい」

「ほらな」

「センジュ以外はな」

「・・・は?」


セヴィオの目が見開いた。しっかりと聞き逃さなかった。
隣に居たセンジュも同じ顔をしていた。驚きを隠せない。
思いもよらない発言だったのだ。
セヴィオはおずおずと聞いた。

「あんた、それマジ?」

「ああ」


ギュウウッ
フォルノスの応えに、センジュの手を握る力が一層増した。
セヴィオは力でフォルノスに勝てないのはわかっている。
だからこそ、センジュに好かれるしか勝つ方法はないと思っていた。
恐らく他の2人もそう思っているだろう。
そもそもフォルノスはセンジュに興味がないと安心しきっていた。
まさかの発言にセヴィオも反発する。

「って言っても、センジュがあんたを選ぶとは限らないから」

「・・それはどうかな?」


ジロ・・と2人は睨み合う。
その場にいる他4人はたじろいだ。この場をどう納めたらいいのわからない。


「え、ええと・・止めよう?子供たちが見てるよ?怖がってるし」


センジュがビクビクしながらも木々の方を指さした。
センジュ達が来るのを楽しみにしていたスラムの子供たちが隠れながらこっちを見ている。
それを見てセヴィオが先にフォルノスから目を離した。


「馬鹿馬鹿しい。こんなとこでやり合ってもしょうがねえ。てか喧嘩はマズかったな」

「正論だな」

フォルノスもセヴィオから目を逸らした。
空気が一層悪くなったが、センジュがそれをなんとか遮った。
子供たちに手招きした。

「ねえねえ、今日は街を紹介してくれるんだよね?」

「姫さまぁ~~」

「わ~い」

センジュに話しかけられ、子供たちはようやく笑顔で近づいてきてくれた。
この間来た時よりも清潔感がある。服装もしっかりしている。
着々と街は変わりつつあった。


_良かった。あの時勇気を出して良かった。セヴィオとフォルノスのおかげだ。


「ねえ、やっぱりフォルノスも・・」

と振り返ると、フォルノスの姿はすでになかった。


「あいつならすぐに去った。なんかすげー嫌そうな顔してた。子供好きじゃないって言ってたし」

「え・・そか」


_やっぱり、ここはフォルノスにとって何かあった場所なのかな?


フォルノスも気になったが、子供たちに笑顔を向けられ気持ちを切り替えた。


_うん、今はこの子達と一緒に街の状況を確かめるんだ。


「あっちに今日案内してくれる人がいるハズだ。いこう」

「うん」


子供たちに案内され、スラムの街の奥へと向かった。