それから2人は城に戻るとセンジュの部屋ですぐにフォルノスの手当てに入った。
フォルノスの手に巻いた応急処置の包帯はすでに真っ赤に染まっている。

「何か他に必要な御用があればお声がけください」

「ありがとうリアさん」


リアから救急箱を受け取り、ゆっくりと包帯を取る。
思わずゴクリと喉を鳴らすセンジュ。
大きな斧を素手で受け取っていたのだ。
自分の身体に痛みが走るほどの大きな傷を見て固まってしまった。


「酷い・・痛そう・・」


清潔な水で洗い流す。


「雑菌が入ったら大変だね・・」

「軽いモノなら分解出来る。平気だ」

「え・・フォルノスって・・凄いね」

「何がだ」

「ううん、なんでもない」


_そうだよ。そもそも人間じゃないんだから。私の知らない力が備わってるんだ。いつまで経ってもついて行けないな。ていうか、フォルノスは自分の傷を治すことなんて簡単なんじゃ?どうしてやらないんだろう?


血が止まってきたのを確認するとガーゼをそっと当て、包帯を優しく巻いた。
フォルノスはその様子を静かに見つめている。
センジュは包帯を縛りながらお礼を告げた。

「今日は・・ありがとう」

「・・仕事の内だ」


いつものように嫌味をいう事なくフォルノスは頷いた。


「私って本当にちっぽけだった。フォルノスが平手してくれなかったら気がつかなかった」

「気がついたのならいいだろ」

「それは結果でしょ」

「結果でいいだろうが」

「そういう事じゃなくてさ・・初めから私がちゃんとしてれば」

「この世界を何も知らない人間が、初めから上手く出来るわけが無い。そんな事はわかっている」

「う、うん・・」

「だからお前は学ぶんだ。毎日な」


_ずっと、そういう目で見てくれてたのかな、もしかして。私、誤解してたのかな?
ただ嫌われていた訳じゃなかった?見守ってくれてた的な・・?


ジッとフォルノスを見つめると、フォルノスは同じ様に見つめ返した。


「え・・と」


_見つめ合っちゃった・・ヤバ。なんか急に恥ずかしいんですけどっ


ドキン

目を逸らすと、フォルノスのひとさし指がセンジュの唇に触れた。


「な、なに・・?」


「切れている。噛み締めてただろ」

「あ・・」


突然ほわほわと唇の辺りが温かくなった。
フォルノスの力で治してくれているらしい。


「大丈夫だよ。私じゃなくて自分に力を使いなよ。こんなにひどいケガなんだから」



心臓がドクドクと収まらない。
急に襲ってきた恥ずかしさで目を背けた。


_何?この空気・・いつもと違ってなんか変。フォルノスもいつもの感じじゃなくて・・。



「お前の為じゃない」

「え・・?」

「俺がこうしたいから治している」

初めて見せる悪戯そうな笑みを浮かべると、フォルノスの唇がセンジュの唇を捕らえた。

「な・・んっ・・・フォル・・んんっ」

驚いて顔を背けようとした瞬間、するりと舌が口の中に入った。

「ふ・・あっ」

舌を上下に弄ばれ、絡めとられる。

「ん・・ふっ・・」

抵抗しようと体を引くと、フォルノスの大きな手がセンジュの頭を覆うように抑え込んだ。


_何?急に身体がビリビリ痺れる。腰に力が入らない。


逃げ腰をもう片方の手で抑え込まれると、体がビクリと跳ねあがる。


「ひゃっ」

「クク・・他のヤツらと練習でもしたか?妙に舌の動きが滑らかだな」

「ちが・・んぁっ・・」


_何コレ・・何コレ!?知らない!身体が・・おかしい・・熱い・・胸が苦しいっ


「も・・やめっ・・」

「ヤメナイ。」


フォルノスはペロりと唇を舐めとると、そのまま座っていたソファーへとセンジュを倒した。

ギシ・・。
しなる音が耳に響く。
緊張しながら恐る恐る薄目で覗くと、間近にフォルノスの銀の瞳が映る。
2人はじっと見つめあった。


ドクドクドクドク・・・・。
心臓が爆音を奏でている。


「ね、ねえ、フォルノス・・」

「なんだ」

「おかしいから・・」

「何が」

「カラダが変だから・・もうやめよ?」

その言葉にフォルノスは笑いを堪えるように顔を背けた。


「これで正しい」

「へ・・だって」

「俺の舌が心地よかったんだろう」

「ち、ちが・・ふぁ・・っ」


否定を遮るように何度もフォルノスの舌が揺らめく。

「俺も・・心地いい」


ドキン
かすれた声が耳に入り、また体がビリビリと電気が走る。


「・・やだ・・おかしいの・・やだっ」

「ククク・・これでいいと言ってるだろうが」


顔を真っ赤に染めて悶えているセンジュの姿は、男なら誰もが理性を失うものだろう。妖艶の一言で片付く。
今はフォルノスでさえ冷静でいられなかった。


_才能・・だろうな。これは。


ちゅ・・ちゅ・・
とフォルノスの唇がセンジュの体をなぞる。

「は・・や・・やぁ・・」

「その声も、体も・・全部」

「フォルノス・・ねえ・・やだ・・んっ」

「欲しくなる」


ビクン
指先が敏感な部分に触れると、センジュの体が魚の様に跳ねた。
フォルノスも不思議に感じていた。
他の女とは別の何かをセンジュは持っている。
ただ欲望の処理をするだけの道具のハズが、まるで宝を大事に触れるような感覚で指を滑らせたいと思う。
一つ一つの反応がやけに新鮮で楽しかった。もっと悶える姿を見たいと思った。


「ああっ・・や・・そこ・・やだぁ・・」

「いいの間違いだろ」

「ビリビリする・・やぁっ」

懸命に手をフォルノスの頭に押し付けて抵抗するがすぐに力が入らなくなる。

「んー・・あっ・・ぁっ」

「クク・・フフフ・・お前は。ヤダヤダって嘘つきだな」


目の前で楽しそうに笑うフォルノスを見つけ、ぎゅっと鷲掴みされた様に胸が高鳴った。


_え・・え・・え!?あのフォルノスが凄く楽しそうに!?


「フォルノスが・・笑ってる」

「・・は?笑ってないぞ」

「笑ってるよ!え!?笑ってるの自分で気づいてないの!?」

「どうでもいい」

「よくない!初めて・・みる・・ひゃっ」

「まあ・・今は・・楽しいかもしれないな」


ぺろり。と太ももを舌がなぞった。

「ひゃあっ」

「お前のその反応は新鮮だ。他の女とは違う」

「え!?」

「だが、今はそんな話をする必要はない。はぐらかすな」


ドキン

ドキン

ドキン



_フォルノスが笑った。凄く・・綺麗で・・素敵な顔だった。


初めてみたフォルノスの笑顔はあまりにも衝撃的だった。
絶対ににこやかに笑ったりしないだろうと思っていた。
自分にもだ。


「ね、お願い・・リアさんが来るし」

「待たせておけばいい」

「出来ないよっ」


懸命に抵抗するセンジュの目をフォルノスはもう一度ジッと見つめた。


「今なんだ」

「え・・?」

「お前が欲しいと思ったのは」

「フォルノス・・?」

「この俺が・・今、お前を欲しいと思った」

「そんな事言われても・・や、やだよ・・だって・・・」

「なんだ?」


一気に不安が押し寄せる。
震える唇で、思いの丈を伝えた。


「だって私、嫌だ・・私は・・パパとママみたいになりたい」

「・・・」

「フォルノスは私とそうなりたくないんでしょ?前に言ってたよね?仕事だけの関係を望んでるって・・」

その言葉にフォルノスの動きはピタリと止まる。
そしていつもの冷静な顔に戻った。

「他の3人に、いるのか?」

「・・え?」

「お前が想う相手が」

「それは・・」


_まだ全然決められない・・皆いい人達だけど。簡単には決められないよ。それにフォルノスだって私をどう思ってるのか。
好きでもないのにこんな事出来るなんて・・。

俯き黙ったセンジュからフォルノスは離れた。


「わかった。弄んで悪かったな」


そう一言だけ言ってフォルノスは部屋を後にした。

_なんだろう?フォルノス・・やっぱり少し変だ。私の事キライなくせに・・。


考えても考えてもフォルノスの気持ちがわかる訳もなく、その日はモヤモヤしたまま眠りについた。