その日は最後の薬を飲んだ後、ぐっすりと眠る事が出来た。
時折熱で目覚め、ぼーっとしているセンジュを傍で見守っていたアルヴァンが優しく頭を撫でた。
子を心配する親の様にも、恋人を愛おしむ様にも感じた。

それから再び眠りに誘われ次の日になると、熱は下がっていた。
まだアルヴァンの大きな手のひらの感触が頭に残っている。


_アルヴァンさん・・ずっとついていてくれたんだ・・。昨日は変なこと聞いちゃって申し訳なかったな。



コンコンコン・・とノックが聞こえ、リアが朝食を持ってきた。


「おはようございます。体のお加減はいかがですか?」

「まだちょっと頭痛がするけど・・起き上がれそうです」

「無理はなさらないでくださいね」

「リアさん。ありがとうございます。色々と」

「とんでもございません。汗を沢山かかれていると思いますので、先に入浴されますか?」

「あ、はい。そうします」


シャワーを簡単に済ませ朝食をとっているとノックが聞こえた。


「入るぞ」


ドキン

「あ・・フォルノス」

声ですぐに解った。
フォルノスはいつも通りの無表情で中へ入った。


「今日は俺が護衛だ」

「そうなんだ。他のお仕事はいいの?」

「あるにはあるがこれも任務だ。お前は気にする必要はない」

「あ、はい」


_相変わらずな人だな。表情一つ変えないで。私はフォルノスの提案に熱まで出したのに。


丁度口にしていたパンの最後のひとかけらを食べ終えたセンジュは食後の挨拶を告げた。

「リアさん、ご馳走さまでした」

「はい、おさげいたします」


2人に気を使ったのか、リアは足早に部屋を後にした。
途端にしーん。と部屋が静まり返る。いとも簡単に気まずい空気が流れた。


「なんだかそうやって立っていられても困るし、ソファーに座ってよ」

「ああ・・」


フォルノスは黙って近くにあったソファーへ座った。
しかし会話がなくずっと黙ったままだ。


_うう、何話したらいいのかわからない。


「えっと、今日は訓練はしないの?」

「お前の体調次第だが、まだ治ってないだろう」

「あ、うん・・でも少しなら動けるよ」

「それでぶり返しては元も子もないだろ。休んでいろ」

「は、はい」


_ごもっともです。そういうところは気遣ってくれるんだ。



しん。

すぐに会話が途切れてしまう。
そしてそれに耐えられず挙動不審になってしまうセンジュ。


_護衛って必要かな!?無理やり仕事に行ってもらえたりしないかな!?ええと、何か話題は・・・。


「あ、そうだ。フォルノスの力では病気は治せないの?」

「何?」

「頭痛とかは無理なの?あ、でも余程の事じゃない限りは他人に使わないんだっけ」


無理やり見つけた話題だったが、意外と当たりだったらしい。


「来い」


ドキン


「え・・」


フォルノスに手を差し伸べられ、思わず目を丸くしてしまった。


「出来ない事はない」

「え・・え?」

「何してる。鈍いな」


強引に腕を引かれ、隣に座らせられた。
バクバクバクバク・・・
心臓がもの凄く稼働している。
今日のフォルノスはまるで自分の知らないフォルノスの様だった。
フォルノスの手がセンジュの頭に乗った。
ほんのりと温もりを感じる。


「ここか?」

「え・・あ・・はいっ」


_いゃあああっ!!!緊張する!!どうしちゃったの!?この人本当にフォルノス!?


「目を閉じろ。視線が気になる」

「ひゃ、ひゃい」


上ずってしまい声がひっくり返った。
ぽわぽわと頭に温かい感覚があった。
ズキズキと重い痛みが少しづつ引いてゆく。
10秒ほどであっと言う間に痛みが消えた。


「え・・・凄い」

「大したことではない」

「ううん凄い!凄く良い力だよフォルノス!!」

「こんな事で褒められてもな」


センジュは興奮して目を輝かせていた。


「・・うっとおしい目だ。やめろ」


フォルノスはセンジュに背中を向けた。


「いいな、私もそういう力だったら欲しいなぁ」


感動しているセンジュを横目にフォルノスは呆れた様子だ。


「良い事ばかりではない。使い方次第ではな」

「でも、使い方がわかってれば色んな人を助ける事が出来るでしょ?」

「だから・・お前の様なヤツにこの力があったら大変な事になる」

「え?」


言っている意味がわからなかった。


「お前みたいにぬるい人間が誰かれ構わず助けまくって引っ掻き回すのだろう。想像できる」

「何それ酷い!そんな事ないよ!」

「いや、俺にはわかる。お前はそういうヤツだ」


その言葉には流石にカチンと怒りスイッチに切り変わったセンジュだ。


「もう!口を開けば否定ばっかりしてさ!勝手に決めつけて!!どうしてそうなるわけ!?ホント性格悪い」

「否定ではない。全部予測からの忠告だ」

「否定だよ!私の考えの何がいけないの!?」

「俺は面倒が嫌いなだけだ。お前のようなやつの行動パータンは簡単に読める」

「うむうううううっ・・」


_くっ悔しい~~!いっつも顔色変えずに!!なんかアルヴァンさんが怒ってたのわかる!!いつも自分が正しいって顔してる!!