城に着き、馬車から降りたセンジュの足はまるで生まれたての小鹿の様にガクガクだ。

_うぅ・・足に力が入らない・・。


センジュのその様子を見たセヴィオは楽しそうに笑った。

「・・ぷ、悪い。加減できなかった」

「もぉ・・馬鹿・・」


もう少しで腰が抜ける寸前だった。
セヴィオに支えられながら歩いていると目の前から魔王が歩いてきた。
わざわざセンジュを乗せた馬車を見るなり迎えに来たらしい。魔王の背後にはエレヴォスが見えた。


「センジュ~~おかえり・・ってどうしたの?」

「う、パパ・・なんでもない」

「そう?今日は楽しかったかい?欲しいものは買えたかな?」


と娘との会話にワクワクしている魔王だ。


「ええと・・」


_なんて言ったらいいのかわからない・・買い物してないし。


困っている様子を見かねたセヴィオが代弁した。


「街を一つ、買われました」

「ん?なんだって?」

「街の外れにあるスラムを姫様は買われました。そこに住む者達の信頼を得て、今後は姫様の力になるとまで言わせておりました」

「へ・・?」


一瞬キョトンとした魔王とエレヴォスだったが、のちに大笑いした。


「はーっはははっ!面白いな!それは本当かセンジュ!?」

「ええ本当に。とても面白い話ですね」

センジュは恥ずかしいながらに伝えた。

「だって、困ってたみたいだし・・私はこのお城で美味しいご飯をいつも食べて不自由もない。お金の使い道が無かったから」

「うんそうか。うんうん、わかった。良い考えだ」

と魔王はセンジュの頭を誇らしげに撫でた。


「正直あの街に関しては手をまわす事はしてこなかったし。忙しすぎて考えも及ばなかったよ」

「パパ・・」

「お前は私にはない才能を秘めているのかもしれない。嬉しいよセンジュ。パパは誇らしいよ」


エレヴォスはセンジュと目が合うとニコリと微笑み、深くお辞儀をした。


「荒れた地を耕すのは容易ではない。それをやってのけるとは・・流石としか言いようがありません」

「エレヴォスさん・・そんな大げさです」

「いいえ。王女としての気質が備わっていらっしゃいます。今後貴女は我が君の強い力になりますね」

「パパの力に?」


_パパの手助け。そんな事考えた事もなかったけど。


セヴィオはセンジュと魔王の前に跪いた。


「魔王様、姫様は本当に頼もしい存在です。今後も俺はお2人の為に尽力します」

「セヴィオ・・」

「うんうん、期待してるよセヴィオ」

「はっ」


忠義も怠らないセヴィオに、センジュの胸がきゅっと締め付けられた。その姿に背中を押されたような気がした。
ジッと見つめているセンジュを、エレヴォスは見逃さなかった。
ほんの少し心の奥に嫉妬が芽生え、話をすり替えた。


「そうだ、折角ですのでお2人にもご報告をします。フォルノスの件ですが今回は怪しい動きの者はいませんでした」

「そうなんですか」

「ええ、新参者はおりませんでしたし・・。長く勤める者達ばかりです。裏と繋がっていそうな気配はありませんでした」

「そっか・・」


セヴィオも眉をしかませながら納得した様だった。


「ですが、油断は禁物。守りを徹底しましょう」

「そうだな」


そんな話をしているとセンジュの脳裏にフォルノスが思い浮かんだ。


「私、ちょっとフォルノスの様子を見てくるね」


まさかセンジュが自分からフォルノスに会いたいなど言うとは思わなかったエレヴォスは止めにかかった。


「フォルノスはもう回復して政務についてますよ。心配なさらずとも・・」

「顔を見るだけでいいから。ちょっと行ってくるね」

「あ・・待てよセンジュ」


走って行ったセンジュを止めようとした2人を魔王が止めた。


「まあ、いいんじゃないか?なんだ2人ともセンジュとフォルノスを気にしているのか?」

「・・そうではありませんが」

「・・・っ」


魔王の前に残念そうにしている2人。
そんな2人を面白半分で意地悪をする上司だ。


「フォルノスも無事だった事だし、犯人が見つからないのはちょっとイラついちゃったけど、今は良しとしよう。ああ、それとセヴィオはさっきの件詳しく聞かせて」

「は、かしこまりました」

「休憩も兼ねよう。はー今日は疲れた。イライラしてたから甘い物が食べたいなぁ。エレヴォス」

「御意、すぐにご用意を」

「うん」


魔王は2人を連れて自分の執務室へ向かった。