ガタンッ!
セヴィオは妙な気配を感じ立ち上がった。目を見開きじっと遠くにあった化粧室の方を凝視している。
突然の行動にゼンが首を傾げる。

「センジュ!?」

「は!?」

「セヴィオどうしたんだよ?」


店内の空気の流れが出口に向かって変わったのをセヴィオは逃さなかった。
入り口近くに配置させていた部下が慌ててセヴィオのもとへ駆けつける。

「セヴィオ様!外に!!」

「わかった。悪いお前ら、急用だわ」


そう言ってセヴィオは駆け出した。


「おい、ちょっと!」

「セヴィオ!?」

「なんだよあいつ・・」

「とりま、いくぞ」


コーマとクロウ、そしてゼンの3人は目を見合わせた。そして四大魔将であるセヴィオが血相を変えて出ていった意味は不明だがその後を追いかけた。


店を出てすぐ隣の路地を真横に抜けると細い裏路地に繋がっている。
センジュを攫った男たちは裏路地に入り階段を抜けたがその先はレンガで出来ている壁があるだけだった。
男達は行き止まりにまんまと追いやられた。
何故ならば店を出た矢先にセヴィオの直近の部下達がセンジュの姿を確認し追いかけて来たからだ。


「畜生、なんだこいつら!」

「城の兵士!?セヴィオの部下か!?」

「こんなに沢山何処に隠れてやがったんだ!」


センジュを抱えている体格のいいリーダーの男と仲間が4人。
それに対しセヴィオの部下は15人だ。初めは数人だったが、追いかけられているうちに徐々に部下が増えてきたのだ。


「その方を離せ!」

「無礼者!!」


_セヴィオとお城に一緒にいた人達!?ずっと見張っててくれたんだ!?


ほっとしたのはつかの間、ごろつき達は兵士達に向かって刃物を振り回す。


「てめえら邪魔するんじゃねえ!」

「離してっ」

「黙れ!」

男は手を振り上げた。


_叩かれる!!


しかしセンジュが目をつむった瞬間、男の悲鳴が辺りにこだました。


「ぎゃあっ!!あっ!!つつっ」


男の手が一気に燃えたのだった。
必死に消そうと地面でもがいている。
センジュはその隙を見て急いで逃げようと試みた。

しかし


「待て!逃がさねえ!!」

「きゃあっ!」

近くに居たもう一人のごろつきがセンジュの腕を引いた。


「火を消しやがれ!さもないとこの女を殺す!」

首にナイフを突きつけられ、センジュは固まった。


_怖い・・本気だ。



するとその瞬間、しつこくつき纏っていた炎がリーダー格の男の手から消えた。

「畜生、許さねえぞ!!」

「許さない?それはこっちのセリフだ」


路地からゆっくりとセヴィオが現れた。
目は狂気に満ちている。今すぐにでも手を下しそうな表情だ。
身体からもゆらゆらと炎が揺れ動いている。


「お前ら、何してるのかわかってんだろうな」

「は?当たり前だ!お前が泣いて女を返して欲しいとせがめば許してやってもいいぞ」

「くだらねえ・・馬鹿は嫌いだ」


セヴィオの手の平から炎がいくつも舞っている。
しかしセンジュが敵に捕まっている。
暫く睨み合いが続いた。


「この女と引き換えだ。金をあるだけもらおうか」

「金?」

「ああ、お前はいいよな。そんな若さで四大魔将に選ばれて・・屋敷での優雅な暮らし。女も選び放題。でもよ、俺達はスラムで残飯あさり。なんでこんな風になっちまってるんだ?誰がこんな風にした?」

「あんたらがまっとうに働いてないからだろ」

「はあ!?四大魔将が聞いて呆れる!俺達の事を何もご存じないみたいだな!この世界は運が良けりゃお前みたいにとんとん拍子。悪けりゃ地を這いずりまわる生活。どうみても理不尽じゃねーか?」

「薄っぺらい話だな。俺が努力もなしに四大魔将になったとでも思ってるのか」

「ああそうだ!その選ばれたてめえらは苦しんでる庶民には何も施しちゃくれねえしよ」


センジュは訴えている男達の身なりを見た。
確かにボロボロの服によごれた顔をしている。頬がこけている者もいる。


「城に訴えても音沙汰もねえ。どうなってんだよぉ四大魔将さんよ」

「さあ?そんな話聞いたことないんだけど。でも俺も言わせてもらうけど、俺はお前達がせっせと働いているのを見た事がない。金を掴めばすぐに酒や賭博に使うじゃねえか」

「おい俺たちの事を見てねえのに何偉そうなこと言ってんだごら!ぶち殺すぞ!!」

「いいや見た事がある。あんたらスラム街のごろつきだろ?」

「だから!!スラム街の魔族を全員ひとくくりで見てんじゃねえだろうな!?」

「女攫っておいて何言ってんだよ。自分はまともだって言ってんのかよ?」

「こ、これは・・」


リーダー格の男がどもった矢先、隣に居たやせ細った男がヒートアップした。


「いいから金くれよ。そしたらちゃんと働くからさぁ。でないとこの女がどうなるかわかってるんだろうな?」


センジュを掴んでいる男はワザとその汚い舌を伸ばしセンジュの頬を舐めようとした。
それにはリーダー格の男もたじろぐ。

「おい」

「てめえ!!」


セヴィオが力を放とうとしたが、一瞬躊躇した。