アルヴァンとセンジュは城へ到着すると、すぐに魔王のいる執務室の扉をノックした。
出来事を報告する為だ。


「入れ」

「失礼いたします。アルヴァンです」

「どうした」


机に向かって何かの書類に目を通している魔王と、窓の外を見つめるフォルノスの姿があった。
魔王は何かを察した様に眉を困らせた。フォルノスは何かを悟ったような表情をしている。


「センジュ?そんなに俯いて・・目も腫らしてどうしたんだい」

「・・パパ・・っ」


すぐに魔王は歩み寄りセンジュの顔を確認する。
アルヴァンは魔王の前に跪いた。


「姫君の警護中、アクシデントが起こりました」

「どんなだい?」


その言葉に瞬時に魔王の目は鋭くなる。
可愛い娘の瞳から涙が溢れて止まる気配がない。


「はい。親睦を深めようと我が屋敷にて娘を紹介しに向かったのですが、その先で敵襲に会いました」

「ほう?アルヴァンの屋敷で?」

「はは・・」

魔王の機嫌は更に下がった。
ピリつく部屋の空気にフォルノスの指先がピクリと痙攣する。
その圧倒されそうな空気に耐えつつアルヴァンは出来事を話した。


「離れで休憩をしていたところ、謎の黒ずくめの男達が我妻を人質にし現れ姫を渡せと」

「それで?」

「はい、即刻その者達を成敗しました。しかし妻はその際に傷を負い死に。娘や侍女も殺されました」

「・・そうだったか」


涙を流すセンジュの頬を魔王は自分の服の袖で拭った。


「大変な目に遭ったんだね。センジュ」


センジュは俯いたまま首を横に振った。


「・・私が・・あの屋敷に行ってしまったから・・アルヴァンさんの家族が・・」

「お前は自分のせいだと思っているのか?」

「だって・・私を狙って・・」

「だとしてもそれはお前のせいじゃないよ。狙う者が100パーセント悪いのだからね」

「パパ・・」


魔王は怒りのスイッチを切り、穏やかな顔で言った。


「それにセンジュが悪いと言うのなら、父である私の方がもっと悪いだろう?私が魔王だからお前をそんな目に遭わせてしまっているんだ」


初めてみる穏やかな顔を見て、フォルノスは目を背けた。
自分の崇拝する魔王の知らない顔だった。
魔王はアルヴァンに告げる。


「アルヴァン、お前の家族の死は・・決して無駄ではなかった。きっと、センジュを護る為に戦ったのだろう」

「はい、おっしゃる通りでございます」


労いの言葉にアルヴァンはようやく緊張が解けた。
噛み締めた唇は小刻みに震えていたが止まった。


「我らが魔王と姫君の為ならば、民は喜んで働くのですから。妻も本望です」

「そうか、ありがとう」

「はは!もったいなきお言葉」


空を見上げながら、その出来事をフォルノスは冷静に考える。


「何者かが姫君を狙って、という事は・・我らの近くに姫を狙う者がいるという事か?」


それにはアルヴァンも同調し頷く。


「ああ、俺もそう思った。俺の妻と会っていた男達が襲ってきたという事はな。近くに潜んでいる可能性は高い」

「城の中でも決して油断できないな」

「ああ、わかっている」


フォルノスとアルヴァンが深く頷くと、魔王はため息を吐いた。


「堂々と私を倒しに来ればいいものを・・姑息な真似を」

「あなた様の力は計り知れないものですから、容易に尻尾はだせませんでしょうね」

「実にくだらないな。不快極まりない。センジュとの幸せな生活を脅かすのなら容赦はせん。生き地獄を味わわせてやる」

「御意に」


凍てつく言葉に、2人は首を垂れた。