・・・


(お願い、開いて)


もうどれくらい、この木に話しかけただろう。
でも、そうする他に思いつかなかったのだ。
雪狐の力を使わないとすると、時空の歪みが自然と生じるのは一体いつになるのか。
いや、そもそも普通は歪まないわけで――そうすると、「自然と開く」なんてことはあり得ないのかもしれない。
だとしても、必死で(こいねが)わずにいられるものか。


「私は行けなくてもいいの。あの人を助けたい。恭一郎様が助かるなら、私は……」


(どうして、その先を言えないの)


ほら、まだそんな不純な気持ちが残っている。
まるで、そう言われているように、もうずっと何の変化もない。
光に包まれるどころか、一筋の光どころか。
ほんの点ほどの明るさすらない。


「本当よ。私にできることなら、何だってする。私自身が持っているものは、高が知れているかもしれないけど……他に、恭一郎様の他に代えられるものがあるなら、私は……」


何だって差し出そう。
だから、教えて。
あの人が助かる方法を。
もし、もしも叶うなら、一緒に生きていける世界を見せて。
それが欲張りだと言うなら、二度と逢えなくなるのが条件だとするなら。

――ねえ、せめて。


「お前が百度参りとは、意外だな」


――あなたが元気で、笑っていられる世界をください。


「……こんなことしか、思いつかなくて」


生きていてほしい。
これほど真剣に、こんなにも強く願っているのに。
結局無力だと認めるなんて、どうしてできるだろう。
それだって他力本願だと、どこかで見ている存在は怒っているのだろうか。